[マールレポート ~企業ケーススタディ~]

2023年3月号 341号

(2023/02/02)

【ベインキャピタルの担当者が語る】新生プロテリアル(旧日立金属)の成長戦略

  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2023年3月号 通巻341号(2023/2/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
末包氏

末包 昌司(すえかね・まさし) ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC パートナー

東京大学工学部学士、ハーバードビジネススクール経営学修士(MBA)。
ボストンコンサルティンググループで消費財・通信・自動車・金融等の業界に対してのコンサルティングに従事。2006年ベインキャピタル日本オフィス立ち上げに参画後、ベインキャピタルボストン本社を経て現職。プロテリアル(旧日立金属)取締役、キオクシア(旧東芝メモリ)取締役・監査役、ニチイ学館ホールディングス 取締役、昭和飛行機工業 取締役、日本風力開発 取締役を歴任。

8000億円を超える大型買収

 ベインキャピタルを軸に日本産業パートナーズ(JIP)、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)によって構成された企業コンソーシアム(BCJ-52)による日立金属の普通株式のTOBが2022年10月25日をもって成立した。コンソーシアムは日立金属株式35・6%を取得、その後、日立製作所が保有する日立金属株式(53.38%)の売却を行い、日立金属は2022年12月29日に上場廃止。買収総額は8000億円を超える大型買収となった。

 2009年時点で日立製作所が持っていた上場子会社は22社にのぼる。同社は2000年前後から半導体事業などのボラティリティー(変動率)の高い事業を切り離すという事業変革を進めてきた。しかし、リーマン・ショック後の2009年3月期に7873億円という巨額最終赤字を計上。これを機に、デジタル化の波が製造業を根本から変える時代が到来するという危機感を背景に、従来の大量生産方式の製造業を脱却し、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などデータを集めて付加価値を生み出す事業体を目指すという針路のもと、一層の事業の選択と集中を進め、上場子会社22社についても関係見直しを進めた。

 日立金属は、日立化成、日立電線と並ぶ日立グループの「御三家」の一角を占める存在だった。しかし、企業変革については「御三家」も聖域ではなく、利益率が5%以下の事業は再編の対象とされた。御三家のうち日立電線は2013年に日立金属による吸収合併で姿を消し、日立化成は2020年に昭和電工(現・レゾナック)に売却された。

 この他のグループ企業も、日立機材はカーライル・グループと組み2015年3月にMBOを実施、非上場化(現センクシア)。日立工機は2017年3月、米投資ファンドのKKRに売却(現・工機ホールディングス)。日立建機は2022年8月、日立製作所が約51%を保有する株式のうち26%分を伊藤忠商事と日本産業パートナーズが共同出資するHCJIホールディングスに売却、日立製作所の連結子会社から外れて持分法適用関連会社となった。また、日立物流はKKRによるTOBが2022年11月に終了、2023年4月に「ロジスティード」への社名変更を発表するなど、22社あった上場子会社のうち、日立グループから12社が消えた。

 こうした変革を経て、日立製作所の2023年3月期の売上高にあたる売上収益は前期比7.4%減の9兆5000億円、営業利益は同5.2%減の7000億円(同7726億9200万円)、経常利益は同3.8%増の8710億円(同8670億5400万円)となる見通しだ。

 日立金属は、日産コンツェルン創始者である鮎川義介氏によって明治43年(1910)に東洋初の可鍛鋳鉄工場として設立されたのが始まり。ここから日産自動車や日立製作所など日産・日立グループへと発展した。その意味で、日立金属は日立グループの創業企業ともいえる存在で、日立金属の売却によって日立グループの事業再編はほぼ完了する。

 日立金属グループは、2022年3月期連結で売上収益は前年度比23.8%増の9427億円、最終損益は120億円の黒字となったが、数年にわたって減収減益傾向が続き、2019年度および2020年度には最終赤字を計上。2020年初頭からのCOVID-19拡大の影響によって世界経済が落ち込み、2020年4月には品質保証問題を公表するなど、事業環境が大きく変化する中で事業体質の変革が待ったなしの状態だった。

 日立金属を買収した企業コンソーシアムの主軸となったベインキャピタルは、米国・マサチューセッツ州ボストンに本社を置く独立系プライベート・エクイティ・ファンド。2006年に東京オフィスを設立して以来、エビデント、IGNIS、キリン堂ホールディングスニチイ学館hey、昭和飛行機工業、東芝メモリ(現キオクシア株式会社)、with、大江戸温泉物語すかいらーくホールディングス、ドミノ・ピザジャパン、雪国まいたけ等約30社の投資実績を持っている。また、JISは、日本政策投資銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行がアンカーとなり、2010年9月に日本で設立。JIPは、日本企業の事業再編及び再構築に寄与する日本型プライベートエクイティ事業を展開することを目的として、2002年11月に日本に設立された。

 日立金属は2023年1月、社名を「プロテリアル」に変更して新たなスタートを切った。そこで、ベインキャピタルで本案件を担当している末包昌司パートナーに、買収の経緯と今後の成長戦略について聞いた。
<インタビュー>
事業の全体最適を進め、M&Aを活用してグローバルトップを目指す

 末包 昌司(ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC パートナー)

ベインキャピタル主軸の企業コンソーシアムが選ばれた経緯

―― ベインキャピタルをメインに日本産業パートナーズ(JIP)、ジャパン・インダストリアル(JIS)で構成されたファンド連合による日立金属のTOBが、2022年10月に成立し、日立金属は2023年1月、社名を「プロテリアル」に変更して新たなスタートを切りました。本件買収に至った経緯についてお聞かせください。


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