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[マールインタビュー]

2014年10月号 240号

(2014/09/15)

No.170 国際税務から敵対的TOBまでM&Aの最前線を駆け巡る

 太田 洋(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士、東京大学大学院 法学政治学研究科 教授)

太田 洋(西村あさひ法律事務所パートナー弁護士、東京大学大学院 法学政治学研究科 教授)

[1] 国際経営統合の新しい動き

コーポレート・インバージョン(海外への本社移転)


-- コーポレート・インバージョンという言葉を最近よく耳にするようになりました。どういう意味ですか。

「インバージョンとは、ひっくり返す、逆転するという意味です。つまり、簡単に申し上げますと、コーポレート・インバーションというのは、会社の親子関係を逆転させて、海外に本社を移転させる行為を意味しています。具体的には、ある日本の会社(A)が海外に本社を移したい場合、まず海外に本社の『種』となる子会社(B)を少額の現金出資により設立します。そして、その海外子会社が日本にさらに子会社(C)をつくり、Cが自らの親会社であるBの株式を対価としてAと三角合併を行います。これによって、Aの株主にはBの株式が交付されますので、最終的には、Aの株主はBの株主に振り替わり、Cに吸収合併されたAはBの子会社となります。つまり、資本関係でみますと、C(旧A)とBとが逆転したことになり、日本の会社は、親会社としての本社を海外に移すことができたことになります。このようなことは三角株式交換を使ってもできます。日本でも2007年に会社法で三角合併等が解禁されたことによりコーポレート・インバージョンを行うことが可能になりました」

三角合併を用いたインバージョン

-- 何のために行うのですか。

「例えば、税負担の低い国・地域に本社を移すことができれば、節税に役立ちます。1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて、米国企業や英国企業の間で、バミューダやケイマン諸島などのタックス・ヘイブン(租税回避地)に本社を移転するインバージョンが盛んに行われるようになりました。その後、米国議会でインバージョンに対する批判が高まり、連邦内国歳入法典にインバージョン対策税制が盛り込まれたため、この動きはいったんは沈静化したのですが、最近、米国企業を中心にまたインバージョンの動きが高まっており、2012年以降2014年5月までの間にインバージョンを実行又は発表した米国企業は14社に上るといわれています」

-- どんな動きですか。

「今回は、タックス・ヘイブンに本社を移すのではなくて、先進国の中でも法人実効税率が相対的に低いオランダ、英国、スイスなどに本社を移転する動きが目立ってきています。それも、1社による単独のインバージョンでなく、国際的な経営統合を契機としてインバージョンが行われている点が特徴です。経済のグローバル化が一段と進み、多国籍企業グループは世界中でビジネスを展開していますから、本社機能は世界中のどこに置いても良いわけです。そのようなビジネス環境の中では、タックスも当然大きな考慮要素になります」

-- どんな例がありますか。

「2014年に入って行われた米医薬品大手ファイザーによる英アストラゼネカに対する非友好的買収提案もそうでした。約12兆円のビッグディールです。最終的にはアストラゼネカ側に拒否されたことにより買収は実現しませんでしたが、ファイザーは国際経営統合を機に、統括会社を英国に置き、効果的な租税負担体制を構築すると表明していました。米国の法人実効税率は約40%と世界一高いのに対し、英国は21%であり、パテント・ボックス税制と呼ばれる研究開発優遇税制も存在することが背景にあります。また、これも最終的には破談になったのですが、2011年に発表されたニューヨーク証券取引所ユーロネクストとドイツ証券取引所の国際経営統合でも、両社の統括会社はオランダに置かれることになっていました。中立的な第三国に会社を置くという理由のほか、オランダの法人実効税率が米国やドイツ(30.2%)より低い(25%)こと等も考慮されたと思われます」

-- 海外移転すると納税は全部、移転先で行うのですか。

「そうではありません。ファイザーの例で言いますと、両社の上に統括会社が新たにできるだけですので、米国法人である今のファイザーは当然ながら米国に残ります。従って、ファイザー自身が米国で稼いだ分は当然、米国で納税されます。しかし、インバージョンを行うことによってファイザーの下にある海外の子会社群を英国の統括会社の下にぶら下げれば、海外で稼いだ分は米国では一切納税されなくなります。つまり、海外売上比率が大きい企業ほど、本社を海外へ移転させることによるインパクトは大きくなります」

-- 世界で1、2を争う製薬会社が国外脱出をもくろむ。こうした動きを米国民はどう見ているのですか。

「企業が株主利益の最大化を目指して活動する以上、そのような動きはやむを得ないという擁護論もありますが、他方で、国際的な法人税の引下げ競争が行われる中、他国が法人税引下げを武器に本社を米国から奪っていくような動きが顕在化していることに対しては、米国内で政治的に強い反発があります。米国企業が海外にインバージョンを行う動きは今後加速するのではないかと言われていますので、それに対して危機感を強めた民主党の有力議員らから、2014年に入って連邦議会にインバージョンの阻止法案が提出されるまでになっています」
 

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