- <目次>
- 日本経済が抱える危機は旧来の経済学では解決できない
- 日本経済の成長力を奪ったもの
- 日本の生産性向上の障害になっているもの
- 企業規模と生産性の相関関係
- 日本の中小企業問題のルーツは1964年体制
- 1964年体制を根本から見直せ
- イノベーションが最もやりにくい産業構造
- エピソードとエビデンス――“ウサギちゃん評論家”の弊害
- 5%の最低賃金の引上げ
- 中小企業改革とM&A
日本経済が抱える危機は旧来の経済学では解決できない
―― アトキンソンさんは、ゴールドマン・サックス証券のアナリスト時代、バブル崩壊後の日本の金融機関の巨額不良債権問題を鋭く指摘して「伝説のアナリスト」といわれました。その後、文化財及び国宝建造物等に対する美術工芸工事を手掛ける小西美術工藝社の社長に就任されてからも、日本経済復活に関する様々な提言を行ってこられました。このほど、日本経済が生産性を高めるための具体的な方法を示した『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(講談社+α新書)を刊行されましたので、同著の提言を踏まえて、少子高齢化、経済低迷という深刻な状況にある日本経済再生の処方箋をうかがいたいと思います。まず、アトキンソンさんは日本経済が直面している問題についてどうみておられますか。
「改めて言うまでもありませんが、日本の技術力の高さは折り紙付きで、世界でも高評価を受けています。事実、世界経済フォーラム(WEF)の2016年の人材評価ランキングでは、日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国で第4位、18年の国際競争力ランキングでも第5位になっています。
1990年の日本経済は、米国の7割程度の規模でした。しかし、今ではアジアで3位、米国の4分の1程度の経済規模しかありません。アジアにおいては、給与水準についても物価を考慮した購買力調整済みの数値で4位にまで落ちています。この20年間を見ても先進国の給与が約1.8倍となっているのに対して、日本は9%減少しているのです。生産性を見ると、90年は世界9位でしたが、今では28位にまで下がって、先進国の中では最低水準なってしまいました。
日本が経済成長を実現ができず、日銀のインフレ目標も達成できずにいる。それは、他の先進国と比べ物にならないスピードと規模で人口減少が起きているからです。さらに、2015~2060年までの人口予測値を見ますと、日本の総人口は31.5%減り、15歳以上64歳以下という経済成長にとって最も大事な生産年齢人口は42.5%も減ると予測されています。
この日本が直面する危機に対して、従来の経済学は答えを出すことができていません。経済学が確立された時代は人類の歴史の中で人口が大きく増加していく時代と重なっています。つまり、経済学は人口増加を前提としたものであって、人口減少を想定していなかったからです。例えば、一般的な経済学の教科書でおなじみの概念に長期潜在成長率というものがあります。教科書では、この長期潜在成長率より実際の経済成長率が低下した場合には、金利を下げるなどの金融緩和や、経済対策を実行すれば経済成長率は長期潜在成長率まで回復するとされています。
多くのエコノミストや経済評論家の頭の中にはこの教科書理論が前提にあるのですが、実はここに1つ大きな盲点があるのです。長期潜在成長率は必ず右肩上がりになるとして記載されているということです。なぜそうなっているかというと、人口が右肩上がりで増加することを想定しているからです。つまり、金融政策などが効果を上げるとしているのは、人口が右肩上がりになっていることを前提とした考え方なのです。ところが、日本は人口が急激に減っていますので、これまでのような経済政策や金融緩和の効果は見込めません。従来の経済理論がまったく通用しなくなっているということです」
日本経済の成長力を奪ったもの
「所得水準が同じような国を比較した場合、人口の多い国の方がGDP(国内総生産)が大きくなるのは当然です。日本経済が世界3位の規模になっている主因は世界に2つしかない1億人以上の人口を誇る先進国だからです。
人口の増加がなくなると、どうすれば、経済を成長させるか。例えば、日本の人口は