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[【クロスボーダーM&A】ベトナム投資の基礎知識 [ベトナムマーケット概要](ワールディング)]

(2016/06/29)

ベトナムの自動車業界②

 谷口 正俊(株式会社ワールディング 代表取締役社長)

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、東南アジアの政治的安定や経済成長等を目的に1967年に設立され、現在10ヵ国が加盟している。2015年末にASEAN経済共同体(AEC)が創設され、物品・サービス・投資等の分野で経済自由化や統合に向けた取り組みが加速しており、EUを上回る6億人規模の一大経済圏ができるとの期待が高まっている。

 その中でベトナムは、人口規模でいえば2.5億人のインドネシアに次ぐ1億人弱の水準である。人口千人当たりの自動車保有台数を見ると、国民車構想もあり発展の早かったマレーシア(400台)や「アジアのデトロイト」をスローガンに自動車産業育成を計画的に行ってきたタイ(200台)に比べ、ベトナムは15台と非常に低位である。一般的に1人当たりGDPが3,000ドルを超えると四輪車モータリゼーションが加速すると言われ、まさに3,000ドル前後のベトナムは人口規模を鑑みても今後急速に世界自動車市場でのプレゼンスが高まる可能性が大きい。経済成長率が低いタイやインフレ率が高いインドネシアに比べ、ベトナムは高成長・低インフレで安定感があるといえよう。2015年の新車販売を見ても、ベトナムは他のASEAN諸国に比べて大幅増加を続けている。他の要因としては、経済発展に伴い購買力のある中間所得層の形成も挙げられ、景気腰折れや政権交代に伴う大きな政策転換がない限り、販売はしばらく拡大すると見る向きが多い。

 日系完成車メーカーは、1960年代から地道にASEAN自動車市場の開拓を進めており、新車販売の日系シェアは、ベトナムでは5割(インドネシアで9割、タイとフィリピンで8割)と、日系完成車メーカーの牙城となっている。

 ベトナム自動車工業会(VAMA)が発表した2015年12月の総販売台数(輸入車およびVAMA未加盟メーカーを含む)は、前年同月比45.5%増の2万9,397台となった。12月の新車販売台数(バスシャシーは除く)は、44.9%増の2万3,775台。車種別では、乗用車が41.6%増の1万3,779台、商用車が50.4%増の9,174台、ダンプを中心とした特殊車両(SPV)が41.5%増の822台となり、2015年通年の総販売台数(輸入車およびVAMA未加盟メーカーを含む)は、前年比55.2%増の24万4,914台となった。

 マークラインズ集計による2015年のメーカー・ブランド別新車販売台数では、地場メーカーのチュオンハイ(Truong Hai)が81.5%増の5万9,518台(シェア24.3%)、トヨタが23.2%増の5万285台(同20.5%)、フォードが48.3%増の2万740台(同8.5%)、ビナマツダが115.7%増の2万359台(同8.3%)、ホンダが28.0%増の8,312台(同3.4%)などとなっている。

 車種販売の特徴としては、タイではピックアップトラックと小型乗用車が市場の8割を占め、大家族世帯が多いインドネシアは7人乗り3列シート中心のMPVが4割超のシェアを占めており、マレーシアは乗用車比率が高いセダン王国となっている。一方でベトナムは新車市場が急成長中であり、3ヵ国のようなはっきりした傾向はまだ見えづらい。現状、ベトナムは輸入関税の影響等で四輪車の新車価格が高いこともあり、大半の国民の移動手段は二輪車で、二人乗りは当たり前、ファミリーカーもクルマではなくバイクということも珍しくない。但し、急速な経済成長とともに、富裕層中心に高級車市場も拡大している模様である。

 日系完成車メーカーは、タイ、インドネシアを中心に生産能力を拡大させる計画だが、マレーシア、フィリピン、ベトナムでも規模は小さいが完成車工場等への投資が出ている。各国政府の自動車産業政策が魅力的になってくれば、徐々に生産を増加させていく可能性もある。

 ASEAN域内の経済統合により、モノの流れの活性化が予想されることから、中大型商用車のポテンシャルも大きいだろう。また、今後はいわゆる「陸のASEAN」地域でも、国内の物流量増加とともに各国間の分業体制再構築が見込まれ、モノを運ぶための物流トラック需要が拡大すると思われる。また、東西経済回廊や南北経済回廊等の幹線道路建設が進むことによる、また、道路インフラ整備のための建設用トラックの需要拡大もあり、その大動脈に沿うように工業団地や物流センターを整備する動きも広がってこよう。乗用車同様、日系商用車メーカーはASEAN地域におけるプレゼンスは高く、今後の生産・販売増加も期待できよう。

 日系サプライヤーの世界における現地調達率は6割を超えており、各地域での部品の調達を積極化している。ASEANでは、2014年にインドネシア、ベトナムで部品の一部現地調達を義務づける政策が発表されるなど、国産化を推進する動きがみられる。今後は市場拡大に伴う完成車メーカーの現地生産能力の拡充が進めば、タイ以外の主要国でも徐々に日系サプライヤーの進出が進んでいく可能性もある。

 ベトナムでの自動車需要は増大を続けており、今年1~5月の自動車販売台数は前年同期比31%増の約111.5万に達した。7月1日からは、排気量1.5リットル未満の自動車に課される税金の税率が現行の45%から40%に下がり(18年には35%へとさらに下がる)、販売を一段と押し上げるとみられている。

 ASEANでは、日系完成車メーカー間の競争も激化しているが、欧州、米国、韓国等の完成車メーカーも生産能力拡大を計画している。また、ASEANは中国、インド、韓国等とFTAを締結しており、これら日系以外のメーカーが低い関税などを活用してASEAN市場に攻め込んでくることも考えられる。特に中国系完成車メーカーはこの市場に高い関心を持っているようである。ASEAN自動車市場で堅固な事業基盤を築く日系自動車メーカーだが、欧・米・韓系に中国系を加えたメーカーが強力なライバルとなり、競争環境がより厳しくなることも想定しておかなければならないだろう。


株式会社ワールディング

株式会社ワールディング
TEL:03-5361-6455

■筆者プロフィール
谷口正俊(たにぐち まさとし)
1973年イタリア・ローマ生まれ。
早稲田大学商学部卒業後、(株)ベネッセコーポレーション入社。
同社退社後、2000年7月「教育を通じてより良い世の中へ」と、教育関連企業(株)ウィル・シードを共同創業、代表取締役副社長就任。大手企業400社の人財育成支援及び、全国の小中学校に新しいタイプの体感型教育プログラムを提供。
同社副社長を退任後、2006年6月、(株)アクティブリッジの設立に参加。
7年に亘るベトナム事業展開の後、2013年3月、(株)ワールディングを設立。
日系企業のベトナム進出支援、ベトナム人材採用・育成事業を展開中。
日本とベトナムを往復する日々を送っている。


 

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