[M&Aフォーラム賞]

2015年11月号 253号

(2015/10/15)

第9回 M&Aフォーラム賞が決定――M&Aフォーラム賞『RECOF賞』などに3作品を選定

M&Aフォーラムの2つの柱

落合氏  また、M&Aフォーラムの落合誠一会長(中央大学法科大学院教授、東京大学名誉教授)は同フォーラムの活動について次のように述べた。

「日本経済の回復を背景に、日本企業のM&Aが増加・拡大傾向にあります。組織再編や事業拡大を目的とした国内企業同士のM&A(IN-IN)は、大手企業だけでなく、中小企業も巻き込んで展開されています。

  また、グローバル競争を勝ち抜くために、欧米に加え、新興諸国のマーケットを目指した海外企業を買収するクロスボーダーM&A(IN-OUT)は過去最高のペースで増加し、金額も大型化しています。この先もM&Aマーケットの更なる活発化・活性化が見込まれています。

  私どもM&Aフォーラムは、2005年、内閣府経済社会総合研究所のM&A研究会でその設立が提唱され、わが国のM&Aの健全な発展と普及を促進する活動を行う場として設立された民間ベースのフォーラムです。

  M&Aフォーラムの設立の目的は、M&A活動が、わが国経済の持続的成長、あるいは産業・企業の成長・発展に寄与するという考えに基づき、わが国におけるM&A活動の普及・啓発を図り、あわせてM&Aに精通した人材を育成することを目的として、地道な活動を続けております。

  私どもの活動は、2つの柱から成り立っています。その1つの柱は、M&A人材育成のための『M&A人材育成塾』と称する研修事業です。講師にはM&A業界の第一人者の方々をお願いしており、2006年から今日までに開催された講座数は30講座、ご活用された企業数は延べ600社を超えており、受講者は、計1,000名近い方々のご参加を頂いています。中でも2009年からスタートした『M&A実践実務講座』はこの6月に開催した講座で20回を数えます。5つのプログラムからなる講義は、基礎から実践までM&A実務の要点とともに、事例やトピックも取り入れており、M&Aの初期研修に最適とご好評を頂いています。週2回、2週間あまりと短期集中的に総合的なM&Aが学べることもあり、首都圏のみならず、地方からのご参加も頂戴する中心的な講座となっています。

  もう1つの柱は、今回で9回目を迎えた、M&Aフォーラム賞という顕彰制度です。わが国のM&Aの普及啓発に資する優れた書籍、研究論文に対して表彰する制度であり、レコフさんの全面的なご支援を得て毎年実施しております。毎回その年のわが国のM&Aの実情を反映した作品が応募されており、受賞作品を一覧するとわが国のM&Aの発展の状況が判るという側面があります。

  作品審査は選考委員会で行われ、選考委員長には、第5回から日本経済研究センターの岩田一政理事長にお願いしており、毎回懇切なるご講評を頂いております。今回も、これまでと同様、いずれも大変レベルの高い作品の応募を頂き、特に受賞作品は、いずれも甲乙つけがたく、今回も選考委員の先生方を悩ませたと聞いております。

  お忙しいところ、岩田委員長を始め、審査の労を賜りました選考委員の先生方には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

  M&Aフォーラムは、設立から間もなく10年の歳月が経過しようとしています。この間、リーマン・ショックや新興諸国の成長など世界経済を取り巻く環境は大きく揺れ動き、日本企業も少なからず影響を受けましたが、一方で、M&Aは、再編や海外進出など経営戦略の一つとして日本企業に根付き、また、M&Aの活用を通して、日本企業も幾多の経験も重ねてきています。

  私どもM&Aフォーラムは、今後も着実に実績を積み上げてまいりますので、皆様には、本フォーラムの趣旨をご理解賜り、より一層のご支援の程お願い致します」

受賞者の言葉

  受賞者は、それぞれ次のように喜びの言葉を述べた。

【受賞者の言葉】

■【正賞】 『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』
松本 茂(SCS Giobal 取締役 マネージングディレクター、同志社大学大学院ビジネス研究科 准教授)
松本 茂氏 「由緒あるM&Aフォーラム正賞を受賞でき、たいへん嬉しく思っております。
  M&Aアドバイザーとして15年仕事をしてきました。海外案件は成立まで時間と労力を要しますが、買収後の経営で躓くケースが後を絶ちません。『なぜ失敗が多いのか』現場での疑問が、神戸大学での研究と執筆のきっかけとなりました。
  出版後は、売れ行きが気になり書店に行く機会が増えました。読者からコメントを頂戴すると活字を通じて思いが伝わったことを実感しました。それは、成功報酬にも劣らない喜びでした。
  今回、失敗を著したことで、大学や企業での講演で「買収はやらない方がいいのですか?」と質問を受けます。日本企業が世界で勝ち抜くには、買収の手段が欠かせません。問題は買収をすべきかではなく、買収を利益成長に繋げる経営ができるかで、それには先人が辿った失敗から学ぶことも多いのです。
  東洋経済新報社様をはじめ執筆をご支援下さった皆様、そして暖かく見守ってくれた家族に感謝したいと思います」

■【奨励賞】 『買収ファイナンスの法務』
大久保涼(編著:長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
鈴木健太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)
宮﨑 隆(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
服部紘実(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
大久保涼氏/鈴木健太郎氏/宮﨑 隆氏/服部紘実氏(著者連名)「この度はM&Aフォーラム賞奨励賞という栄えある賞を頂きまして大変光栄に存じます。選考委員の先生方及び事務局の皆様には、厚く御礼申し上げます。本書は、買収ファイナンスの案件に日常的に関わっている執筆者が、未だ発展途上の分野で体系的な文献も少ないこの分野について、初心者に役立つ入門書となり、また既に実務に関わっている関係者にとっても論点整理の一助となることを試みたものです。複雑な買収ファイナンス取引を平易に説明すること、また、判例も学説上の議論も乏しい中で理論的検討を試みることは難しい作業でしたが、今回このような賞を頂けたことを励みとし、今後も改訂の機会を得て内容を充実させていきたいと考えております。
  また、この分野では、今後も日々の実務の発展、法改正、案件の多様化等に伴い新しい論点が次々と生じてくると思いますが、これらの論点及び関連実務について更に工夫と検討を重ね、日本のM&Aファイナンス実務の発展に多少なりとも貢献すべく、日々努力していきたいと考えています」

■【選考委員会特別賞】
『株式買取価格決定における市場株価を参照した「シナジー分配価格」を無裁定価格で補正するための数理分析』
石塚明人(青山学院大学 大学院法学研究科 博士後期課程3年)
「このたびは、選考委員会特別賞『RECOF 特別賞』を受賞させていただきまして、大変光栄に存じます。評価して下さった選考委員会の諸先生方、さらにこのような受賞機会を提供して下さいました主催者・関係者の方々に深く感謝いたします。
  受賞対象となりました論稿は、M&Aあるいは組織再編に関連した会社法上の株式価格決定裁判において、株式市場価格を使用した価格決定方法を探求しております。裁判例や会社法学説を具体的事案に即して定量的な検証を中心とした内容となっております。その際、経済学やファイナンス理論など企業法学に隣接する諸科学の知見をも活用し、裁判実務で求められている具体的数字を使用した算定方法を提示したのが特色です。
  まだまだ多くの検討課題が残されておりますが、我が国における公正なM&Aの普及に微力ながら寄与できるよう、今後とも地道に事例の検証を積み上げ新たな知見が得られるよう日々精進して参りたいと思います」

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