[【連載対談】THE GREAT INNOVATORS ―― 原田泳幸と未来を牽引するイノベーターたち]

(2020/06/10)

内山英俊 unerry 代表取締役CEO~日本最大のリアル行動データプラットフォームを活用して“環境知能社会”実現の最先端を走る

原田 泳幸(ゴンチャジャパン 代表取締役会長兼社長兼CEO、原田泳幸事務所代表取締役)
内山 英俊(unerry 代表取締役CEO)
久保田 朋彦(GCAテクノベーション 代表取締役)(司会)
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左から原田 泳幸氏、岸田 祐介氏、久保田 朋彦氏

左から原田 泳幸氏、内山 英俊氏、久保田 朋彦氏


 アップル、マクドナルド等のトップを歴任し、この間、エレクトロニクス、外食それぞれの産業で、圧倒的な地位を作ることに成功した原田泳幸氏をホスト役に、今注目の起業家をお招きして未来を牽引するイノベーターの発想を対談で探る「GREAT INNOVATORS」。

 今回のゲストは新型コロナウイルス感染拡大に起因する人流変化情報の発信でも注目された日本最大のリアル行動データプラットフォーム運営会社
unerry代表取締役CEOの内山英俊氏。




unerry設立までのストーリー

久保田 「新型コロナウイルスの感染拡大の防止にも大きな役割を果たして注目されているunerry(ウネリー)ですが、まずunerryを創業するに至った経緯についてお話しください」

内山 「私の会社を一言で言いますと、“リアルなGoogle”と考えていただくとよろしいかと思います。2019年のEC市場は約19.5兆円です。日本の最終消費支出が300兆円であることを考えると、まだ物を買うのに7%弱しかネット化されていないということです。つまり90%以上の消費はリアルで動いているのが現実です。しかし、そのリアルの消費についても、例えばどんな人がどの道を歩いてどの店で物を買ったのかについてはほとんどデータ化されていない、非常に非効率なマーケットとして存在している。この状況を解消したいというのが、unerryを立ち上げたきっかけです。

 当社のビジネスモデルについては後ほど詳しくお話しさせていただくとして、私がunerryを立ち上げるまでを振り返ってみたいと思います。

 私は、1998年にデータベース領域で有名な先生のいるミシガン大学の大学院に留学し、同時に付属の研究機関でリサーチアシスタントとしても働きました。当時Googleを創業していたラリー・ペイジ氏も卒業生兼共同研究者として大学にたまに顔を出していました。彼はインターネット上のデータを集めて、その情報を整理し、検索連動広告商品などを作ってクライアントの売上を上げるというビジネスを展開していました。しかし、私は当時その会社が正直うまくいくとは全く思っていなかったのです。どちらかというと、これからはモバイルの時代だということで、在学中に米国でスマートフォンのサービスを行うベンチャーを複数人で立ち上げたのですが、残念ながらこれは全然うまくいかなかくて閉じました。

 この失敗の経験からコンサルティングの仕事に興味を持って、A.T. カーニーとプライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)で働きました。グローバルなコンサルティング会社で、特にICT系の仕事をさせていただくことを通じて、やはりモバイルが世界を変えていく時代が来ることに気付き、2005年にサイバードというモバイルコンテンツ会社に転じて事業部長をさせていただき、その仲間と共に07年にモバイルのクリエイティブエージェンシー(モバイルサイトの制作・コンサルティングを手掛ける会社)を立ち上げて独立しました。08年ぐらいになるとiPhoneやAndroidなどのスマートフォンが日本にも上陸してくるわけですが、ちょうど10年前に米国でスマートフォンの関連サービスやっていたという経験とスマートフォンの日本上陸が一致しまして、スマートフォンを日本でいかに広めるのかという事業を推進していました。12年、13年ぐらいになりますとスマートフォンもほぼ普及が終わり、私の役割も終わったかと思ったのですが、今度はまさに原田さんが経営されていたマクドナルドのようなところも含めて、企業がモバイルマーケティングを行う時代への変化が起こってきたのです。モバイルマーケティングは、10年前ぐらいから着目され始めまして、いわゆるオムニチャネル(あらゆるメディアで顧客との接点を作り、購入の経路を意識させない販売戦略)、リアルとネットを行き来して人が物を買うという概念が生まれたわけです。

 しかし、現実にはO2O (Online to Offline:オンラインからオフラインへ送客し、購買行動につなげるマーケティング方法)、オムニチャネルの成功例は日本ではほとんどなくて、ほぼ失敗のキーワードじゃないかというぐらいに言われたものです。実際、私も散々いろいろな失敗をしました。その結果1つだけ分かったことは、規模が期待できないビジネスを対象にしても何の意味もないというごく当たり前のことでした。当時、Beacon(ビーコン)*1の実証実験も日本で始まっていたのですが、ビーコンが重要なツールになるということはすぐわかりました。ただ、小さな規模で行ってもビジネス上のインパクトが全く出ない。リアルなデータを徹底的にかき集めて、その大量のデータをAIで分析して、その情報を最適な人に届ける。これを相当な規模でやれば、今までO2O、オムニチャネルで失敗したことも成功に転じることができるのではないかという仮説を立てて、15年に作ったのがunerryという会社です」

*1:低消費電力の近距離無線技術。2013年AppleがiOSに標準搭載した「iBeacon」を発表した。ちなみに、GPS(Global Positioning System)は、人工衛星から発する電波を活用して位置情報を把握する仕組み。

150万個のビーコンネットワークとGPSを併用したリアル行動プラットフォームを構築

久保田 「unerryが提供している人流ビックデータ解析は、新型コロナ禍での緊急事態宣言による外出規制への影響に関する調査で各メディアでも取り上げられています。unerryがどのような事業を展開されているのかを聞かせてください」

内山 「当社では、現在150万個、日本のありとあらゆる場所に設置されているビーコンが利用可能で、地下街やビル内のテナントまで来店情報がかなり精緻にわかります。屋外の行動はGPSを使って網羅的に把握が可能になっています。またそれらのデータは、ID-POS*2のデータなどとも掛け合わせができ、リアルな多面的な行動データをビッグデータとして持っているのが当社の最大の特長です。さらにAIで分析するシステムをご提供しています。このAI分析システムを小売業者などのクライアントに月額で買っていただいているわけです。

 今日当該店に何人お客様が来て、そのうち来店頻度が高い人が何人、低い人が何人いて、その割合の増減などがわかります。例えば、最近来店頻度が減っている人の割合が増えているとしますと、その人に対して広告を配信することでもっと来店していただくようにするという具合に、このシステムをベースとして組み合わせる形でインターネットに広告などを配信させていただいたり、そういう顧客に訴求する独自のスマホアプリを作りたいというニーズに応えたり、さらに細かくクライアントの欲しい情報に焦点を当てて分析するというように、主にAIシステムの提供・広告配信・CRMアプリ開発ソリューション・ビッグデータ分析の4つを中心に事業展開をしています」

*2:IDがついたPOSのこと。いつどのくらい商品が売れたかだけでなく、誰がその商品を購入したかまで把握できる。



原田 「そうすると、ビーコン設置数が大きなポイントになってきますね」

内山 「おっしゃる通りで、さきほどO2O、オムニチャネルの成功例がほとんどなかったと申しましたが、圧倒的なビーコン設置の少なさが一因です。これまでは、店舗や駅の中にビーコンを設置して、さらに特定のアプリをインストールもしてもらわなければいけないということがありました。実際には、アプリのインストール数も少なければ、ビーコンの数も少ないわけですから、ビーコンはあまり効果がないという市場認知ができてしまいました。

 そこで、私たちはまずビーコン拠点数の拡大に注力しました。例えば、自動販売機のように電源が常時供給されていて、かつビーコンを設置できる可能性の高い事業者との連携です。例えば複数の飲料メーカーが自動販売機にビーコンを設置してスマホ連動する取り組みを行っていますが、その一部とは業務上の連携をさせていただいています。これは弊社にとってはプラットフォームを大きくするという点でも、またプラットフォームに参画していただくことによりビーコン設置の価値をより向上をさせることができたという点でも、非常に大きな意味を持っていました。その後、この取り組みを見た多くの会社からビーコンの設置を行っていただけるようになり、さらに、17年中頃からアプリ事業者からも、多数のビーコンのネットワークがあるなら活用してみたいと言っていただいて、計6000万ダウンロードの様々なアプリと提携をしています」

『Beacon Bank』のビジネスモデル

原田 「具体的に、クライアントに対してどのような利便性を提供しているのですか」

内山 「これまで申し上げてきたリアル行動データプラットフォームを『Beacon Bank®』というサービス名称で小売・外食・メーカー・不動産・交通事業者様などにご提供しています。具体的には、先程申し上げましたリアル行動AIシステムを『来店顧客の見える化ツール』としてご提供しています。

 さらに6000万ダウンロードで得られている来店情報を活用し、来店計測・来棚計測可能なデジタル広告をご提供しています。情報配信の方法はプッシュ通知のほか、FacebookやInstagramへのSNS配信など、いくつかの方法があります。Beacon Bankに連携したアプリを保有しているユーザーはモバイル広告ID(広告で活用可能な端末番号)を活用して各種SNSでの広告配信が可能になっています。

 またCRM(Customer Relationship Management:顧客管理)目的で利用されており、モバイルアプリの開発を請け負ってもいます。Beacon Bankで多くの企業がビーコンをシェア・相互利用できるプラットフォームを活用し、ログ分析やプッシュ配信などビーコンサービスでよく使われる共通機能を提供しています。アプリにBeacon Bank SDK(位置情報を取得できるモジュール)を入れていただくことで、自社ユーザーの位置情報を捕捉して来店を促すことができるので、例えば自宅からどこをどう歩いて、さらにビルの中に入ったら何階に行ったのかというところまでが検知でき、さらに年齢、性別、どのぐらいの速さで移動しているのか、車で行ったのか歩いて来ているのかということまで分かる仕組みになっています。

 より具体的に顧客の行動を知りたいというクライアントにはCDP(顧客データ分析プラットフォーム)や個別分析作業も行っています。弊社のデータサイエンス部隊が各種切り口から日々分析を行い、ツールだけでは見えないインサイトをご提供しています」


新型コロナウイルス感染拡大予防のための混雑マップ情報を提供

久保田 「最近、新型コロナウイルス感染拡大に起因する人流変化の情報を発表して注目されましたね」

内山 「20年5月7日に発表させていただいた『お買物混雑マップ』ですね。日本全国の約2万8000店のスーパーマーケットやドラッグストアが今混んでいるのか、空いているのかがPCやスマホからご覧いただける仕組みです。大変話題になり、テレビ局、各種インターネットメディアに取り上げていただいています。それもあって、当社はベンチャー業界では、“新型コロナ対応”関連銘柄とも言われています」
 
原田 「どのようにしてマネタイズしているのですか」

内山 「この『お買物混雑マップ』は、一般消費者向けに無料で提供させていただいておりますが、私たちのマネタイズは、小売・メーカー・外食・交通事業者様に対するリアル行動AIシステムとそれに関連した広告配信・アプリ制作・行動分析となります。お買物混雑マップを一般消費者にご提供したことで、非常に多くの企業様からお引き合いをいただいており、結果的にAIシステムの導入が相当進みました」

AIを使って性別、年代を推定

原田 「個人から得るデータは、位置情報だけですか?」

内山 「大事な前提としては、名前や電話番号など個人情報(個人に関する情報であって特定の個人を識別できる情報)は一切集めていないということです。例えばニュースアプリとか地図、レシピ動画といった人の位置に関わるようなアプリを提供されている会社と提携をさせていただいて、そこに弊社の位置情報技術を組み込んでいただくことで誰と特定することができない位置情報が蓄積されていくという仕組みを取らせていただいています。このデータを使ったのが、『お買物混雑マップ』であり、リアル行動AIシステムです。

 お買物混雑マップは無料でご覧いただけますが、リアル行動AIシステムでは、特定の店舗に今日何人がどのくらいの時間来店したのか、月曜日から日曜日までの朝から夕方までの間のどの時間帯が一番混んでいるのかということが分かります。競合店のお客様の来店情報も見ることができますし、性別、年代についてもわかります」


原田 「個人情報を取得せずに、男女や年代をどのように特定するのですか?」

内山 「行動から年代を推定します。例えば、渋...



■はらだ・えいこう
1972年日本NCR株式会社入社。研究開発部。90年アップルコンピュータ・ジャパン(当時)入社マーケティング部長。96年米国アップルコンピュータ社バイスプレジデント就任(米国本社勤務)。1997年アップルコンピュータ代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ副社長就任。2004年2月日本マクドナルド代表取締役会長兼社長兼CEO就任。05年西友/Walmart社外取締役就任。13年ソニー社外取締役、ベネッセホールディングス社外取締役就任。14年ベネッセホールディングス代表取締役会長兼社長就任。16年6月同社退任。19年12月ゴンチャジャパン代表取締役会長兼社長兼CEO就任、ゴンチャグループグローバルシニアリーダーシップチームメンバー就任。株式会社原田泳幸事務所代表取締役社長。

■うちやま・ひでとし
1976年愛知県名古屋市生まれ。ミシガン大学大学院コンピュータサイエンス修士課程修了。大学院在籍中にITベンチャーを設立。その後、経営コンサルティング会社に勤務して企業再生などを手がけ、再起業を意識するようになる。2005年、日本のモバイルベンチャーに入社してマネジメントスタイルを確立。07年にスマートフォン普及を推進する企業を共同創業し、日本のオムニチャネル市場の創出に寄与。15年ビーコン等を活用したリアル行動データプラットフォームを運営する株式会社unerryを創業。

■くぼた・ともひこ
UBS証券、ソニー、GCAを経て、2014年にデジタル・テクノロジー分野でのインキュベーション事業を手掛けるGCAの子会社アンプリアの代表取締役に就任。15年以上に渡り、メディア、テクノロジー業界にて、日本企業と米国のテクノロジベースの企業とのM&Aや戦略的アライアンスを実現。日米のメディアおよびデジタル・テクノロジー企業をクライアントとしている他、メディアおよびテクノロジー業界でのカンファレンスにも多数スピーカーとして参加。17年7月に日本での体制強化に伴い、GCAテクノベーションに商号変更。

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