- <目次>
- 海外M&Aが増加する中で悩む日本企業
- 日本企業は本当にものづくりに強いのか
- デジタルなくしてものづくりなしの風潮に対する危惧
- 2つのコミュニケーション・ギャップ
- マザー工場の優秀さを過信する過ち
- 世界で売れる商材(製品、サービス)を持っているか
- 買収先の抵抗感をどうやってなくすかがスタート
- PMIの極意
- 製造業におけるプル型とプッシュ型
- プッシュ型ものづくり工場の問題点
- ビジネスモデルではなくビジネスプロセスモデルが重要
- M&Aで大事なのはビジョンと問題解決策を指示できる仕組み
- ものづくりの要諦は人づくり
- 落ちこぼれ工場を作らない体制の構築
海外M&Aが増加する中で悩む日本企業
―― 近年、将来的な国内市場の伸び悩みに対する懸念や収益改善に伴う企業の手元現金の増大といった状況を背景とし、日本企業が海外企業を買収する
IN-OUT型のM&Aの動きが活発化しております。
こうした海外M&Aの増加傾向の一方で、買収後に海外子会社の経営に関する問題が生じたり、当初想定していたような成果が得られないといったケースも少なくありません。なかでも、製造業においては設計から製造、サービスまでの付加価値の過程が細分化されるなかで、それらが複数の国にまたがって分業されるグローバルバリューチェーンの形成が望まれております。しかし実際には、異なる企業文化・言語の下で、製造現場における情報の共有やレベルアップのための人材の育成などが思うように進まずに悩んでいる日本企業の担当者の声が聞かれます。
そこで今回は、製造業の海外M&Aにおいてシナジーを高めるためのグローバルなものづくり体制構築の課題と解決策について、ものづくりの現場に精通した皆様にお集まりいただき、座談会をお願いしました。
加藤さんは、日本板硝子(NSG)で、米国でのジョイントベンチャー(JV)工場勤務、北米統括会社(財務戦略、M&Aプロジェクト)などを経験され、2001年末より本社経営企画部部長(海外担当)としてピルキントン買収プロジェクトの企画リーダーを務められ、買収完了後、統合推進本部の経営企画担当として英国にも駐在し、執行役員経営戦略部長など、を経て18年4月にKPMG FASに転じてM&Aのアドバイザーを務めておられます。髙木さんは、1948年に世界で初めて「魚群探知機」の実用化に成功し、船舶用電子機器のトップメーカーとして知られる古野電気の舶用機器事業部営業企画部次長で、買収先である海外子会社の支援も経験してこられました。また、神戸大学大学院経営学研究科で博士号も取っておられます(『M&Aによるモノづくりの統合-品質に対する認識枠組みからみた研究』)。西岡先生は、新日本製鐵(現新日鉄住金)君津製鐵所厚板工場長、取締役技術開発企画部長を経て東京大学先端科学技術研究センター特任教授、研究顧問として先端研が有する世界をリードする研究の各産業分野への活用や、若手研究者の人材育成、企業間ネットワークを含む産官学連携を積極的に支援、推進しておられます。
座談会のモデレーター兼コメンテーターを加藤さんにお願いいたしました。よろしくお願いいたします。
日本企業は本当にものづくりに強いのか
加藤 「一般的に日本の企業はものづくりに強いと言われています。その強みが海外M&Aを行う時にもシナジーを形成する武器になるはずであるという固定観念がありますが、実際に製造現場に関わって海外オペレーションを経験した経営者はそう安易には考えていないのではないでしょうか。私は、日本企業によるものづくりの世界展開という時に2つの観点に分けて論ずる必要があると思っています。1つは、安定的な品質とコスト効率が高い優秀な製造現場を設立し維持するノウハウ(組織能力)を持っていて、それを海外でも展開していけるのかどうか。もう1つは、世界の市場で売れる差別化された商材(製品のスペックおよび付帯するサービスとの組み合わせ)を持っていて、かつ市場にアピールできているかという点です。
まず1番目の、製造現場として優秀さについて、日本メーカーは安定した品質や競争力のあるコスト効率を海外工場でも実現できているのかどうかという点です。その際、自前での工場建設の場合と、JVのケース、または、海外M&Aで他社工場を受け継いだケースでは、それぞれ事情が違うかもしれません。髙木さんはどう考えていますか」