[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2024年4月号 354号

(2024/03/11)

第228回 テレビ業界 ~変わる業界環境と活路としてのM&A~

髙瀬 雄也(レコフ)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 今年の夏に開催されるパリ五輪は、話題を呼ぶ要素が多い。同大会では新たな競技種目としてブレイクダンスが追加されることや、フランスの海外領土である南太平洋のタヒチがサーフィン競技の会場となることもあり、世界中から注目を浴びる大会になりそうだ。

 しかし、日本の民間放送(以下、民放)事業者にとって、今年の五輪が経済的な利益をもたらす大会になるのかは未だ分からない。日本民間放送連盟によると、日本の民放全体の収益で見たときに、2012年のロンドン大会以来、夏季五輪の放送は毎大会赤字が続いている。五輪の放映権と番組制作費がテレビ広告収入を上回ってしまっており、日本のテレビ局にとって五輪の放送をビジネスとして成立させることが難しくなっているようだ。

 「メディア業界の花形」とも言われたテレビ業界は、現在どのような業界環境になっているのだろうか。本稿では、テレビ業界の中でも民放キー局の5社(フジ・メディア・ホールディングス、日本テレビホールディングス、TBSホールディングス、テレビ朝日ホールディングス、テレビ東京ホールディングス)に焦点を当てて、テレビ局を取り巻く業界環境の変化やM&Aの動向を紹介していく。

 なお、本稿ではテレビ広告収入を収益源とする民放キー局の動向に着目するため、必ずしもテレビ広告収入に依存せず受信料等を収益源とするNHK、衛星放送、ケーブルテレビ等についてはビジネスモデルの違いから言及を控えることとする。

2. 民放キー局について

 民放キー局とは、地上波民間放送の全国ネットワークの中心となる放送局であり、系列の全国各地の放送局に番組供給を行っているテレビ局である。

 民放キー局による地上波民間放送事業の主な収益源は、テレビ広告収入となっている。テレビ番組の広告主がCM枠で消費者への広告メッセージを発信する代わりに、その広告費をテレビ局に支払うことによって、テレビ番組の放送はビジネスとして成り立っている。なお、基本的な商流として、テレビ局と広告主の取引には広告代理店が介在し、広告代理店が放送時間枠を予めテレビ局から購入してから広告主に販売するケースが多い。また、番組の広告媒体としての価値を測る指標としては視聴率が重視されてきた。

 民放キー局を含む地上波民間放送事業者は全国に127社存在しているが、


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