[視点]

2016年5月号 259号

(2016/04/15)

資本コスト再考

~買収における割引率についての再整理~

 鈴木 一功(早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授)
  • A,B,EXコース

  企業買収において、企業価値評価は今や不可欠の実務となった。しかしながら、実際に実務家から相談を受ける中で、資本コストとは何か、という概念が、正しく理解されていないのではないかという懸念を持つことが度々ある。そこで本稿では、そもそも資本コストとはどのような数値なのか、そして、どのような理屈に基づいて、その計算をすべきなのかについて、再度整理しておく。本誌の読者の多くには、釈迦に説法かもしれないが、再確認ということで、ご一読頂ければ幸いである。
  まずは2つほど、事例を挙げよう。
  1つ目の事例は、某多国籍企業(日本企業)の元CFOの方との会話で気付いたことである。海外事業の評価(EVA的なもの)の際に用いている資本コスト(筆者の意図としては、WACC)に、どのような数値を用いておられるのかをお尋ねしたら、全世界一律に、日本における資本コストを使っておられると即答された。その理由としては、日本において世界中の資金調達を一括して行っているので、資本コストは当然日本のものとなる、ということだった。
  2つ目の事例は、M&Aの現場で散見される以下のような考え方である。買収の際に、ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)を用いて売手企業の企業価値評価をする際に、買手の資本コスト(および買手のベータ値)を用いて、キャッシュフローを割り引いて企業価値を求めるという考え方である。その理由として、買手が調達した資金が、売手の資産の獲得に活用されると考えられることが述べられる。

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