※本記事は、M&A専門誌マール 2025年9月号 通巻371号(2025/8/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
上段左から梅津 英明氏、青木 竜太氏、阿部 大輔氏、樋口 元氏
本座談会では、梅津英明弁護士の司会・進行のもと、投資銀行、コンサルティング会社、事業会社のM&A専門家が、「トランプ2.0政権下のM&A」をテーマに議論を交わした。
マーケットの現状については、トランプ政権による関税政策の不確実性から米国では期待に反して低調との慎重な見方がある一方で、グローバルでは活況で、特に円安・低金利を背景に日本企業の海外M&Aは積極的だとの両面の指摘がなされた。金利等の基礎的な経済指標に加え、各国の選挙日程、関税、
CFIUS、地政学リスク、反ESG政策といった政治的要素が複雑に絡む「ニューノーマル」に突入し、M&Aの難易度は増している。
このような環境下で成功するには、財務分析だけでなく非財務的要素が極めて重要になる。すなわち、日本製鉄のUSスチール買収の案件が示すように、政府や労働組合といった多様なステークホルダーとの対話を重視し、米国の国益に貢献するストーリーを戦略的に構築することが求められる。また、リスク管理のために
アーンアウト条項等を導入するといった契約上の工夫や、政権に影響力を持つロビイストを起用するなどの政治的な判断も有効となる。
こうした予測困難な状況はM&Aにとってリスクであると同時に大きなチャンスとなり得る。米中対立が深まる中、米国の同盟国である日本企業は有利な立場にあり、この不確実性を好機として捉える姿勢が重要となる(この座談会は7月7日に実施している)。
- <目次>
- はじめに~自己紹介
- トランプ2.0発足後のM&A状況の概要
- 関税政策(相互関税・自動車等の分野別関税・対中関税等)がM&Aに与える影響
- Nippon Steel – US SteelのCFIUSを巡る一連のプロセスが、今後の日本企業の対米M&Aに与える影響
- 米中貿易対立・中東情勢・ウクライナ情勢等の地政学リスクがM&Aに与えている影響
- 反ESG政策・反気候変動政策等がM&Aに与えている影響
- 総括――不確実性の時代におけるM&A戦略