1 はじめに 日立製作所は2008年に当時製造業で過去最大の7873億円という損失を出し、早期の事業戦略見直しを迫られました。それまで日本国内市場を中心に製品やシステムを供給し、日本市場の成長と共に会社としても成長してきましたが、そのモデルがおそらくバブル崩壊以降の20年にわたり機能しなくなってきていました。
そこで新たな事業戦略として、「社会イノベーション事業」をグローバルに展開すると定め、そのための事業改革を始めました。「社会イノベーション事業」とは、「顧客・社会の現在及び将来の課題を解決する事業、単に製品・システムを提供するのでなく、IoT/AI/ビッグデータ等のイノベーションを含むサービスを提供する事業」と定義しています。
それを実現するため事業ポートフォリオの見直しにも着手し、グローバル・デジタル・グリーン(環境)をキーワードとしたM&Aを積極的に活用するようになりました。直近の8年間で売上げにして約2.5兆円、連結売上規模(約10兆円)の4分の1を入れ替えたことになります。また、売上げの海外比率は6割を超え、それと呼応するように従業員も6割は海外となりました。このような中で人事部門がM&Aにどのように参画していくべきか、私の経験を踏まえて以下に考えを紹介させていただきます。
2 人事部門内のクロスボーダーM&A専門チーム 私は2017年より現在まで、人事部門として約20件の
クロスボーダーM&Aに参画してきました。立場としてはいわゆるコーポレート機能(グループ本社機能)の人事部門でクロスボーダーM&Aに対応する専門チームです。社外の方に自己紹介すると、このような部署の存在は珍しいと言われることも少なくありません。具体的にはグループ内各事業体が行うM&Aに対してその人事部門に対するアドバイス、サポートの形で参画するケースが多いのですが、案件によっては
ハンズオンで参加するケースもあります。
さて、読者の皆様の中でM&Aを経験された方ならば共感いただけるかもしれませんが、
■ 筆者履歴

中田 真也(なかた・しんや)
1988年 株式会社日立製作所入社。研究開発部門、情報通信事業部門、原子力事業部門、コーポレート部門(本社)にて一貫して人事・勤労業務に従事。情報通信事業部門では国際人事グループを立ち上げ、以降グローバル人事領域にて様々な業務に従事し、2010年日立ヨーロッパ出向、2017年より現職である本社人財統括本部グローバル戦略アライアンス部部長。グループ内クロスボーダーM&Aを人事部門の側面で推進・支援を多数経験。ABBパワーグリッド事業、GlobalLogic、Thales GTS等大型買収案件にハンズオンやアドバイザリー等様々な形で参画。2023年より同グローバルトータルリワード部長も兼任。