1. はじめに
グループ内の事業再編や企業再編といったグループ再編は、企業が当該グループ一体での経営を推進するために過去から数多く実施されてきた打ち手の1つである。特に2000年代以降は、度々の商法、会社法や税法の改正によって法制度の観点からもその実行が促進されてきた側面があり、東証プライム上場企業だけを見ても毎年、数百件のグループ再編が実施されている。
国内市場の成熟、グローバルなイノベーション競争の激化、環境課題への対応など、企業を取り巻く環境はかつてないほど急激に変化しており、投資家からの収益力強化と企業価値向上に関する要求も一層高まっている。
このような環境下で、グループとして最適な事業ポートフォリオを実現し、収益力強化と企業価値向上を達成するために、グループ再編は有効な施策となる。
グループ再編には、その目的に応じて、いくつかの形態が見られる。例えば、「経営資源の集中、コストの削減」を進めて競争力を高めたい場合は「複数法人の統合」による再編、「責任の明確化、意思決定の迅速化」を推し進めたい場合は「事業切り出しによる分社化」、「特定機能の強化、ノウハウの共有・集約化」の場合は「シェアードサービス会社の設置」、「グループ内経営資源の最適配分、ガバナンス強化」を進める場合は「統括会社(中間持株会社)の設置」あるいは「持株会社への移行」、「M&A対応での買収対象事業の体制組替え」の場合は「カーブアウト事業の買収+グループ内法人への統合」といった形で再編が行われることはよく見られる。
これらの目的と再編の形態には、必ずしも明確な対応関係があるわけではなく、目的に沿って実施される再編の形態は複数考えられることが多い。形態ごとの実行可能性やメリットを比較検討した上で、再編後の将来像を決定していくことが必要となる。また、対象となる事業や企業、再編の目的が複数存在する場合は、段階的に再編を実行することもある。
本稿では、近年見られる経営資源の集中、コストの削減を進めて競争力を高めたい場合の「複数法人の統合」による再編、あるいはM&A対応での買収対象事業の体制組替えの場合の「グループ内法人との統合」、とりわけ販売子会社、製造子会社などの「グループ子会社の統合」(本稿では「国内グループ子会社の統合」)のケースを取り上げて、グループ再編における人事領域の重要性と欠かせない視点、代表的な人事の論点を解説する。
2. 「国内グループ子会社の統合」における人事領域の重要性と欠かせない視点
グループ再編時の具体的な人事領域に関する課題や論点には、再編の形態に対応した人材の移管、労働組合や従業員とのコミュニケーションや同意取得、人事諸制度やインフラおよび手続き面での対応、企業や組織の統合を伴う場合の報酬や風土などの差異への対応といった項目があり、特に再編前後の従業員のモチベーションやリテンションへの配慮は不可欠である。同時に法令への準拠やコストへの目配りも行いながら、再編の目的遂行と効果の最大化に向けたプランニングと実行が求められるなど、多面的な検討と相反する論点についての優先順位付けや対応施策が必要となる。
「国内グループ子会社の統合」といえども、
■筆者プロフィール■
河合 晋(かわい・すすむ)
ディレクター PwCアドバイザリー合同会社 専門分野 組織・人事アドバイザリー
外資系コンサルティングファーム、国内大手総合電機メーカー、外資系組織・人事コンサルティングファームを経て現職。30年以上のコンサルティング経験を有し、国内外のクライアントに対する、クロスボーダーおよび日本国内でのM&A、事業再生、グループ企業再編の組織・人事領域における支援業務に従事。
主に日系企業のM&A案件において、人事デューディリジェンス、経営陣・キー人材リテンションプランニング、役員報酬、労働条件・人事制度の統合・改定、人員削減計画・早期退職プログラム策定、組合協議支援など、様々な組織・人事領域での支援を リード。