[M&A戦略と法務]

2025年4月号 366号

(2025/03/11)

学校法人のM&Aを巡る近時の実務動向(2025年版)

渡辺 伸行(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
田中 健太郎(同 パートナー 弁護士)
畠山 大志(同 弁護士)
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第1 はじめに

 2024年12月、日本人の出生数が初めて70万人を割り、68.5万人になるという推計が発表された(注1)。現在の18歳人口が110万人であるところ、この推計は、18年後に41.5万人もの18歳人口が失われることを意味し(37.7%減)、驚異的な数字と言わざるを得ない。仮に、大学進学率が今後も60%程度で推移するとすれば、大学進学者数は66万人から41.1万人まで減少することとなり、この減少幅(24.9万人)は入学定員1000人規模の中堅大学およそ250校分に相当する。これは、今後18年間で数百校規模の大学が姿を消す可能性を示唆している。すでに私立大学を運営する学校法人の多くが経営困難な状況に陥っている現状に照らすと(注2)、大学の統廃合は喫緊の課題である。学校法人のM&Aは、今後、ますます重要性が高まってくることは確実といえよう(注3)。

 近時の代表的なM&A・再編の事例としては、①国立大学のケースとして、東京工業大学と東京医科歯科大学の統合事例(2024年10月、東京科学大学が誕生)(注4)、②同一学校法人内における大学統合のケースとして、学習院大学と学習院女子大学の統合事例(2026年4月予定)(注5)が挙げられる。

 本稿においては、学校法人のM&Aに関し、実務上よく問題になる留意点について解説を行う。なお、M&Aのストラクチャー(合併、設置者変更、理事の交代)を含め、学校法人のM&Aに関する基本的な事項については別稿(注6)が詳しいため、そちらも参照されたい。

第2 ストラクチャーに関する留意点

1 対価の問題


■筆者プロフィール■

渡辺 伸行

渡辺 伸行(わたなべ・のぶゆき)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士(京都オフィス所属)。M&A、スタートアップ案件等に従事。M&Aでは、学校法人・医療法人など会社以外の法人のM&Aにも関与する。複数の学校法人の監事を務める。2010年から横浜国立大学大学院国際社会科学研究科非常勤講師(担当科目:M&A)。

田中 健太郎

田中 健太郎(たなか・けんたろう)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。M&A(LBOローンを含む。)に加え、JV及びFC等の提携案件を多く扱う。米国・欧州の大手法律事務所に出向した経験を有し、国際的な案件の経験も豊富であるが、学校法人、医療法人、社会福祉法人等の特殊法人を対象とするM&A案件の実績も有する。

畠山 大志

畠山 大志(はたけやま・ひろし)
TMI総合法律事務所弁護士(大阪オフィス所属)。学校法人のM&A・再編、ガバナンス改革、産学連携等、大学・教育分野の各種法務案件に従事。また、社会福祉法人やNPO法人のM&Aなど、会社以外の法人のM&Aにも関与。2017~2020年文部科学省高等教育局私学部勤務。2023年~大学教育質保証・評価センター認証評価委員会委員。

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