[クリーンテックと欧米エネルギー企業の最新M&A動向]

(2022/05/16)

【第4回】「化石燃料会社」からの脱皮を図る英Shell(前編)

出馬 弘昭(IZM代表)
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「2030年代に世界最大の電力会社」に

 これまでクリーンテック(脱炭素イノベーション)分野の欧米エネルギー大手のM&A動向の全体像、個別企業事例としてスーパーメジャー仏Totalを紹介した。今回はスーパーメジャーの第二弾として英Shellを取り上げる。

 Shellは化石燃料会社からの脱皮を目指し、電力会社とクリーンテック分野のスタートアップの出資・買収を精力的に行い、2019年には「2030年代に世界最大の電力会社になる」と宣言している。Shellの活動は主に3つある。①Shell本体での企業買収とスタートアップ出資、②CVC部門Shell Venturesでのスタートアップ出資、③Shell GameChanger Accelerator――でのアーリーステージのスタートアップ育成である。以下、取り組みを紹介していく。

 筆者の調べによれば、Shell本体での企業買収は2008年以降、累計18社にのぼる。2008年にCansolv Technologies社を買収したのを皮切りに、2017年に3社を買収して活動を活発化させ、2019年には最多となる7社を買収するなど積極的だ。以下では、2017年以降の主な買収企業を紹介する。

 2017年、Shellは欧州最大のEV充電事業者である蘭NewMotion(2009年創業)を買収してShell Rechargeと改名し、世界33カ国、27万5000カ所での充電ビジネスを展開している。NewMotionはShellにとってモビリティ分野の最初の買収案件として注目された。また、英電力会社First Utility(2008年創業)を買収し、Shell Energyブランドで、英電力市場に参入している。

 2019年、豪電力会社ERM Power(1980年創業)を買収し、豪州の電力市場に参入した。First UtilityとERM Powerの買収により、Shellは電力会社への移行を本格化させている。

 2019年の他の買収企業は、EV充電管理の米Greenlots(2008年創業)、VPP(バーチャルパワープラント=仮想発電所)大手の英Limejump(2013年創業)、欧州最大の家庭用蓄電池メーカーの独Sonnen(2010年創業)などである。

 Sonnenは米国の…


■筆者履歴
IZM代表 出馬 弘昭出馬弘昭(いずま ひろあき)
IZM代表。1983年京都大学工学部物理工学科卒業。大阪ガスに入社し、同社R&DおよびIT部門でデータ分析、行動観察、オープンイノベーション事業などを立上げ。2016年より米シリコンバレーに駐在し、欧米のクリーンテックとのビジネス開発を開拓。2018年に東京ガスに入社し、シリコンバレーのCVC立上げに参画。2021年に帰国し、東北電力に入社し、事業創出部門のアドバイザーに従事。製造業やコンサルティング大手などの外部顧問、海外スタートアップの日本展開支援なども務める。南カリフォルニア大学ロボット研究所客員研究員、京都大学非常勤講師、大阪市立大学非常勤講師、日本オペレーションズリサーチ学会副会長などを歴任。

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