[寄稿]

2013年12月号 230号

(2013/11/15)

M&Aにおける情報管理の実務

 藤井 良太郎(KKRジャパン ディレクター)
  • A,B,EXコース

  日本は世界の主要市場で最もLeakyな(情報が漏洩し易い)市場として悪名高く知られている。強力な取材網を持った新聞やメディアの存在、コンセンサスを重んじる意思決定メカニズム、情報という不可視な資産を重視しない姿勢がそれを産んでいると思われる。筆者は、日本及び海外のプライベート・エクイティ、インベストメント・バンク及び金融規制当局というそれぞれ異なる立場で、M&Aや資金調達、組織再編など関連する機密情報を取り扱う業務に十数年間携わってきた。それらの経験から、日本の現状を踏まえて、M&Aにおける情報管理をどのように行っていくべきかを考察したい。

誰が何故情報をリークするのか

  M&Aに関する重要情報は機密保持契約(Non-Disclosure Agreement:NDA)で保護されているはずである。NDAにおいては一般的に、当事者が秘密情報を漏洩したことにより相手方が被った損害を賠償する責任が負わされているので、そのようなリスクを承知の上であえて機密情報を漏洩するのは余程の事であるはずである。案件の存在自体が重大秘密であり、取引先や社員に甚大な影響を与えるようなM&A(例えば上場大企業同士の対等合併案件)であれば、案件を壊すためにあえて交渉内容をリークするような悪意を持った漏洩者がいたとしても不思議ではない。しかし実際には、リークの大多数は、そのようなセンシティビティが非常に高い案件でなくても日常的に発生しており、発表の瞬間まで本当に全くリークがないケースの方が少ないと言っても過言ではないくらいである。そして、これらの情報漏洩は、それほど悪意のない、案件自体に関係の薄い人経由で発生しているのが現実である。

  実際にNDAに署名するような経営陣やM&A担当部署が自分の責任を問われるような形で案件を漏らすとは考えにくい。また職業上の守秘義務に服する弁護士、会計士、投資銀行などのアドバイザーが漏洩源になることも非常に考えにくい。危ないのは、社内会議で知ったM&Aの途中経過を「ついポロっと」口を滑らしてしまう関係ない部署の所管役員であったり、「事前ご説明」の結果知った面白い話を記者との「貸し借り」のためにネタを提供する確信犯であったりする。本当はこのような人も守秘義務から外れている訳ではないはずだが、罪の意識が低いのと、周縁過ぎて仮に犯人捜しがあっても疑われにくいという心理状況がそうさせるのではないかと思われる。

 

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