[企業変革手段としてのM&Aの新潮流 Season3]

2024年4月号 354号

(2024/03/11)

第6回(最終回) 事業会社におけるインパクト投資の推進に向けて

―スタートアップ投資を通じたインパクト投資の活用

中村 司(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー)
  • A,B,C,EXコース
0. はじめに(要旨)

 日本国内においても「インパクト投資」という言葉が広く使われるようになって久しいが、現時点では、政府の主導する指針を横目に、資産運用機関を中心とする一部の金融事業者が取り組みつつあるという状況に過ぎない。諸外国との取組状況の差を鑑みると、今後の成長ポテンシャルは、国内10兆円規模まで拡大するのでは、と予測されるが、その中でも、非金融プレイヤーである事業会社の存在感が大きくなっていくべきと考える。本稿では、インパクト投資の概況を海外・国内ともに見た上で、特に事業会社の投資機能(コーポレートベンチャーキャピタル)が果たしうる役割、およびそれによる意義と便益を、事例とともに検討していきたい。

 筆者は現在、米国でのインパクト投資の進展を直に目の当たりにし、非金融プレイヤーのスタートアップを通じた取り組み(SalesforceやAmazonなど)とその効果を研究する中で、我が国の事業会社こそ、この取り組みを率先していくべきではないか、と強く覚えた課題感から本稿を記している。

1. インパクト投資とは

 「インパクト投資」とは、当該活動を普及する目的の業界団体GIIN(Global Impact Investing Network)によって「金銭的なリターンをもたらすとともに、ポジティブで測定可能な、社会的及び環境的なインパクト(変化や効果)を生み出すもの」と定義されている(注1)。また、我が国の「インパクト投資等に関する検討会」においても、「通常の投資と同様に一定の『収益』を生み出すことを前提」としつつ、「投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での『効果』と、これを実現する戦略等を主体的に特定・コミットする」と特徴づけられている(注2)。ここでいうインパクトとは、単なる「活動・行為による直接的な結果(製品やサービスの提供:アウトプット)」や、「それらに伴う個人や環境レベルの変化(製品やサービスの提供による成果:アウトカム)」を意味するものではなく、「それら一連の流れを通じた、社会・環境レベルでの変化や効果の創出」であり、社会的な課題に対する大義が語られるべきであることに注意しておきたい。

 つまり、これまでの投資検討において一般的であった「リターン」と「リスク」の2軸に対し、



■筆者プロフィール■

中村氏

中村 司(なかむら つかさ)
デロイト トーマツ コンサルティング / モニター デロイト シニアマネジャー 
消費財・サービス業界を中心に、事業戦略立案や新事業開発を数多く推進。シナリオプランニングや消費者調査・統計分析を活用した事業デザイン・リモデリングから、外部企業とのM&A・提携を活用した事業変革・事業立上の実行までを専門とする。直近では、まちづくり・地方創生やカーボンニュートラル実現、産業創造に向けた、コンソーシアム組成などを多数支援。

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