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[【事業承継】中堅中小企業の事業承継M&A ~会計税務の実務上の頻出論点~(M&Aキャピタルパートナーズ)]

(2020/03/11)

【第10回(最終回)】中堅中小企業の財務・税務デューデリジェンスの実態について

桜井 博一(M&Aキャピタルパートナーズ 企業情報第二部 公認会計士・税理士)
はじめに 

 通常のM&Aの過程では、基本合意締結後、ほぼすべての案件でデューデリジェンス(以下「DD」という。)が行われ、中堅中小企業のM&Aでもそれは例外ではありません。

 一方で、中堅中小企業のM&Aで行われるDDは、大企業のM&Aで行われるDDと少し異なり、様々な実施方法が存在し、買手会社の意向やDDを担当する専門家によってその手続きも大きく異なります。

 そのため、初めてM&Aに携わる買手会社の担当者やアドバイザーは、どうやってDDを進めていけばいいのか、困惑する方も多いのではないでしょうか。

 最終回の本稿では、中堅中小企業のM&Aにおける、デューデリジェンスの実務上の実態について解説します。

DDの種類とそもそもの目的

 DDの種類は多数に渡り、代表的なものとして、法務、財務・税務、ビジネス、環境、不動産・人事などが挙げられます。

 本稿では、財務・税務DDに絞って解説しますが、共通して言えるのは、対象会社を買収する前にDDによって隠れた瑕疵や問題点等を見つけ、企業価値の算定、買収価額やスキームの決定、最終契約書への反映などを目的として行われるという点です。

 とりわけ財務・税務DDの場合、資産の実在性や簿外債務の調査による実態の純資産の把握や正常収益力の分析など、企業価値に影響がある項目を重点的に調査したり、過去の会計処理による税務リスクの把握、決算書が出来上がるまでのプロセスを知ることで適正な会計処理が行われているかのチェックなどを行うことを目的として行われることが多いと言えます。その結果として、買収価額や最終契約書での売手の補償内容などが形成されていきます。

実施方法とDDの定義について

 DDに関する書籍などは多く見受けられるため、DDには決まった方法があると思いきや、中堅中小企業に関してはその実施方法は様々で多くのケースが存在します。筆者も大企業から様々な中堅中小企業のDDを経験してきましたが、業種や案件規模、買手会社の上場の有無、専門家の種類などで全く異なります。

 また、中堅中小企業で行われる「DD」は、そもそもその定義が曖昧です。現地で帳票や現物を直接確認することをDDと言う方もいれば、売手にインタビューを行うことをDDという方もいます。また、最近ではネット環境の普及等により、資料のほとんど全てをVDR(バーチャルデータルーム)上で行うケースも増えてきており、そこに売手サイドが依頼された資料をアップし、買手サイドの専門家がそれを見るプロセス全体指して、DDという方もいます。

 なお、現地での調査は、税務調査のような帳票類のチェックを行う専門家もいれば、通帳や金種などの現物の実査を重視する専門家もいます。

 また、法務は弁護士、財務・税務は公認会計士もしくは税理士、ビジネスはコンサルティング会社などの専門家、と役割を分けて進めるケースが一般的なDDですが、中堅中小企業のDDの場合、案件規模や費用等の兼ね合いから、買手会社の顧問税理士がひとりでこれらを全て担当するケースや、財務・税務DDしか行わないというケースも多く見受けられます。

 ただし、税務の専門家である顧問税理士も、ことM&Aに関しては素人というケースも多々あります。そのため、買手会社がDDで重視したいポイントなどを伝えていない場合、当該専門家が独自のDDを進める結果、参加者全員が何のために現地でこのDDを行っているのかよくわからない、と思うようなDDに立ち会うケースも決して少なくありません。

一般的なDDの流れについて

 DDの実施方法は様々であると上述しましたが、一般的なケースでは、買手会社が選定した専門家等が、まず売手に対し、資料依頼リストを提出し、売手は対象会社に関する多くの資料を事前に提出します。

 資料の提出には、最近ではVDRを使用し、関係者全員がそのVDRから資料をダウンロードし閲覧できるようにするケースが多く見受けられます。

 当該資料を見た買手会社や専門家は、その資料を元に、売手に対し、QAリストなどを使用し、多くの質問を売手に行い、問題点等を抽出していきます。

 どうしてもVDRにアップできない大量の帳票類や、現地に行って実査をしないと実在性を確認できない現物資産などもありますので、通常のDDでは、1~3日程度、現地での調査も合わせて行うことが一般的であり、この現地調査を「オンサイトDD」と呼ぶこともあります。

 現地でのDDでは、資産等の確認だけでなく、専門家が売手へ直接会い、直接インタビューを行える唯一の機会でもあるため、売手に対してのインタビューがほぼ必ず行われます。このインタビューを「マネジメントインタビュー」や略して「マネイン」とも言われます。

 その後、売手への追加質問等のやり取りを経て、専門家は買手会社向けにレポートを作成し、発見した課題等の共有を行っていきます。

 買手会社は当該指摘事項を踏まえ、最終的に売手へ提示する買収価額を決定し、売手に提示する最終契約書の案を作成するにあたり、リスクを回避する条項を織り込んでいく等の調整を図っていきます。

DDの目的について

 DDの目的は様々ある中で、何を重視するべきかを初めに決めることが大切です。例えば、買手会社が買収価額の決定に重きを置くのであれば、正常収益力や実態の純資産の算出、将来の事業計画などの分析を精緻に行うべきであり、ある程度信頼できる売主であれば、細かい重箱の隅をつつくような帳票のチェックなどは優先順位を下げ、費用対効果を重視してスコープの範囲を決める必要もあります。

 また、買収価額は柔軟に決めることができ、それよりも決算書の信頼性やそのプロセス、内部統制などを重視する買手会社であれば、売手への質問やマネジメントインタビューの機会をできる限り増やし、現地での調査を重点的に行う必要があります。

 もし、買手会社が買収価額の決定に重きを置いているにも関わらず、依頼した専門家が現地で税務調査のような細かい帳票のチェックなどに時間とコストをかけているようであれば、そのDDは目的を見失っていると言わざるを得ず、専門家の単なる自己満足で終わらぬよう、依頼側の買手会社は専門家が目的に沿ったDDを行っているかコントロールし、明確な目的と指示を伝える必要があります。

 また、基本合意を締結し、時間と費用をかけて案件を進めているにも関わらず、それをブレイクさせようと考える買手会社や専門家は基本的にいないと思われますが、細かい価格交渉よりも買収を成功させることを第一に買手会社が望まれているにもかかわらず、目的を理解していない専門家が、DDで発覚した課題等を誇大に問題視し、その結果、案件をブレイクさせてしまうケースも実務上では散見されます。

完璧な中堅中小企業は存在しない

 対象会社の問題点の発見や買収価額の減額要因と成り得る事項をDDで把握することは買手会社にとっては非常に重要です。ただし、問題点が出てくると、これ見よがしに買収価額を引き下げたがる買手会社や、それを推奨するような専門家も実際には多く見受けられます。

 一方で、中堅中小企業のM&Aでは、DDで問題点が全く検出されないという会社はまず存在しません。そのため、何らかの問題点があるだろうという点は、基本合意を締結する段階で予見することもできますので、そのリスクを事前に勘案した買収価額を予め売手に提示しておく、という手法も一案です。

 また、中堅中小企業のM&Aは、その大半が友好的に話を進めるものであり、例え買収価額の減額要因が出てきたとしても、引継ぎ期間に積極的な協力関係を築いてもらったり、役員として残った売手に積極的に経営に参画してもらったりするなど、事後的にメリットをとるために、あえて減額をせずに、売手との信頼関係を優先するという選択肢もあるかと思います。

 勿論、どういった問題が論点となりそうか、事前にDDに入る前に把握できていることが最も大切ですが、細かい規定や帳票などから、DDを行って初めて問題点が認識されるケースはどうしても存在します。

 大切なのは、出てきた問題に対し、両社が納得する落としどころを模索するために、買収価額での調整だけでなく、最終契約書の中で調整を図るなど、お互いが歩み寄りの姿勢を持つことが、中堅中小企業のM&Aでは必要な要素と成り得ます。

おわりに
 
 最終回である本稿では、中堅中小企業のDDにおける実態について解説しました。DDでは問題点の抽出や買収価額の調整などを目的として行われることが多いですが、その結果如何に関わらず、中堅中小企業のM&Aでは、最後は人(売手)と人(買手会社の社長)との信頼関係や理論とは異なる形で案件がまとまるケースも多々あります。

 DDはあくまで目的を達成するための手段であることを再認識し、DDの結果を踏まえ、買手会社としてはリスクをしっかりと回避しつつも、どうすれば案件をスムーズかつ確実に進めることができるか、という視点で専門家をコントロールしながら話を進めることが重要だと考えます。

 さて、全10回にわたって中堅中小企業のM&Aの会計税務のポイントについて解説してきました。どの内容も基礎的な内容ですが、なるべく中堅中小企業のM&A実務において頻出する論点に絞って寄稿させていただきました。

 M&A実務に携わる方に、少しでも役に立つ記事になれば幸いです。

■筆者経歴
桜井 博一(さくらい・ひろかず)
大学在学中に公認会計士試験に合格後、卒業後は三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。中堅中小企業向けの融資業務や再生支援業務等を経て、株式会社KPMG FASにて中堅・上場企業向けの財務・事業デューデリジェンス業務を中心としたM&Aアドバイザリー業務に従事した後、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社に参画。物流業界を中心に、飲食業界、アミューズメント業界等、幅広い中堅中小企業のM&A仲介業務に従事している。 

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