[【DD】グローバルM&Aにおける非財務リスクへの対応(クロール・インターナショナル)]

(2019/03/27)

【第4回】 リスク棚卸のためのリソース

村崎 直子(クロール・インターナショナル・インク シニアアドバイザー)
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  前回までは、M&Aに伴ってどのようなリスクがあり、それを理解するためのリスク・デュー・ディリジェンスはどのように行って、どのようなことがわかるのかということを3回に分けてご説明してきました。さまざまなリスクを把握したうえでM&Aに臨まなければ、深刻な失敗に至る可能性があることについてはご理解いただけたのではないかと思います。

  法務デュー・ディリジェンスは弁護士、財務デュー・ディリジェンスは監査法人等が行うように、それぞれそのデュー・ディリジェンスには、それを行う専門家がいます。リスク・デュー・ディリジェンスについても、それを行うコンサルティングファームがあり、クロールでもそういったサービスを行っていますので、実際にリスク・デュー・ディリジェンスを行う場合には、そういった専門家のところに相談するのが最も確実かつ客観性が担保できます。しかし、場合によって、そういった専門家に頼むことができない場合、あるいはまだ頼める段階にない場合もあるかと思います。M&Aの検討のかなり初期の場合などには、まだ時間やコストを使って外部専門家を使ってデュー・ディリジェンスを行うというよりも、自分の会社の中でイニシャルなデュー・ディリジェンスを試みるしかないということもありますし、また、いくつかM&Aの候補先があり、その絞り込み作業をしなければならないというときなどには、候補すべてについて専門家を使ってデュー・ディリジェンスを行うのは現実的ではないということもあります。また、投資規模があまりにも少額で、外部専門家を起用することができない場合もあるかもしれません。そういった場合に、外部専門家に依頼せず、自分たちでできることはないのでしょうか。もちろん、自力でやる分には限界もたくさんありますが、今回は、自力でリスクの棚卸しをするためにはどのようなリソースが使え、どういうところに着目していくべきかについて、お話したいと思います。

  第2回でお話ししたとおり、デュー・ディリジェンスを行う場合には、まずは公開されている文字情報を精査し(公開情報収集)、その上で、ヒューマンインテリジェンス(ヒアリング調査)で文字に落とされていないような定性的情報を入手する、という二段階で行うのが通常です。今回は、その2つに分けて、もう一つ、フィールド調査という観点も含めてご説明したいと思います。

1.公開情報収集

  海外の公開情報ですと、国によって入手可能なデータが異なってくるためイメージしにくいかと思いますので、あえて日本の場合を中心に説明させていただきます。

1)企業リサーチレポート

  日本の場合には、大手企業リサーチ会社による企業の信用調査レポートが簡単に入手できます。海外の場合にはDun & Bradstreet(D&B)レポートが広く知られていますし、各国にそういった同種の企業レポートが存在します。こういったものをまず入手するのは企業の信用度をチェックする基本中の基本ですが、財務上の信用度のチェックだけではなく、ぜひ以下のようなポイントについても着目してみていただきたいと思います。

「詳細不明」「開示拒否」の項目がないか。
これは、そもそもこういった信用調査レポートは、公開されている情報のリサーチのほか、当該調査対象企業に直接聞き取り調査をして情報を入手しているものですので、相手側が協力姿勢を示さず、開示してくれない部分がある場合には、隠したい事情がある可能性があります。
事業規模や事業内容、社歴に不相応な取引先数や子会社数ではないか。
会社の信用性を実態以上に高めたいという場合には、会社の実績や取引先を誇張している場合があります。また、子会社の数がやたら多い場合には、損失飛ばしなどの粉飾決算のリスクが高くなるほか、グループガバナンスがきかなくなるなどのおそれもあります。
他の開示情報(IRやメディアでの取材記事)との不一致がないか。
同様の企業レポート間での情報に矛盾・不一致がないか。
過去のレポートと見比べて大きく変わったポイントはないか。
子会社や主要取引先のレポートに記載されている当該企業の情報に気になるところはないか。


  また、このほかに…



■ クロール・インターナショナル・インク

■筆者経歴
村崎直子(むらさき・なおこ)
クロール・インターナショナル・インク シニアアドバイザー。
大学卒業後、警察庁に入り、静岡県警捜査第二課長、兵庫県警外事課長を歴任。2008年ベイン・アンド・カンパニー・ジャパンを経て、10年クロール日本支社に入社。15年日本支社代表を経て、18年9月より現職。M&Aの際のデュー・ディリジェンスのほか、不正調査などを多く手掛ける。京都大学法学部卒業、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院修士課程修了。

 

 


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