[書評]

2006年7月号 141号

(2006/06/15)

BOOK『概論 日本のベンチャー・キャピタル』

神座保彦著 ファーストプレス 2,800円(本体)

概論 日本のベンチャー・キャピタル
 

 経済の活力を生み出すのは、画期的な技術、製品、サービスをつくり出すイノベーション力の強さである。日本と米国を比較すれば、ITにしろ、バイオテクノロジーにしろ、日本は米国に負けているようだ。
 起業家にはアイデアはあっても、資金と経営能力に欠ける。それらを結びつけてイノベーション創出の触媒の役割を果たすのがベンチャー・キャピタル(VC)である。本書はこうした機能を担うVCの40年にわたる日本での発展の歴史や、現状の解説にとどまらず、今後の目指すべき方向性も示唆している。
 VCは本来、企業の草創期に、ベンチャー・キャピタリストが事業の将来性などを目利きして、資金と経営支援をセットで提供する。公開までいかず、資金が回収されずに終るリスクは高いが、成功すれば、リターンも高い。米国では個人のベンチャー・キャピタリストが自らも出資するファンドを運営しながら行っている。
 ところが、日本では、金融機関系VCがリードしてきたため、米国とは似て非なる形のものになってしまっている。投資事業組合の利用という「大発見」で資金の受け皿はできたが、ベンチャー・キャピタリストの真の精神は引き継がれなかったというのである。リスクを嫌う親会社の文化を引きずっているため、公開がある程度見込める段階になってからの投資が多く、経営支援の点が疎かにされてきた。これでは、未公開株ファンドを運営するアセットマネジメント会社とさして変わらない。もっとも、最近になって独立系VCができ、経営支援を重視するようになっているが、まだほんの一握りであるという。
 本書を読みながら、VCとM&Aの差異を考えてみた。前者は本来、誕生間もない企業が対象なのに対し、M&Aはどちらかと言えば成熟した経営資源の組み替えを目的とする。対極にある手法だが、経済社会にとってはどちらも必要で、この両方が上手く絡み合ってダイナミックな経済社会を作り上げていくのだと思う。
 日本のVCの投資残高が1兆円弱に対し、米国は27兆円もある。日本は米国の30分の1の規模である。GDPの違いは2分の1だから、経済規模の点から極端に低い。一方、M&Aの方は、徐々に質量とも米国に追いついてきている。
 最近では、VCとM&Aの接近も起こっている。VCは、バイアウトや事業再生など既存事業への投資に対象を拡大してきている。投資後は、事業統合などM&Aの手法を活用したり、出口でも公開のほか、M&Aで売却したりするケースも増えている。M&Aに携わる者も、VCのことを知っておくとよい。
 筆者はニッセイキャピタルでVCの経営に関与してきた。VC業界の現状に満足していないのだろう。破壊的なイノベーションが求められていると問題提起している。(青)

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