[書評]

2014年3月号 233号

(2014/02/15)

今月の一冊 『別冊企業会計 企業会計制度の再構築』

 伊藤 邦雄 責任編集/中央経済社/2400円(本体)
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今月の一冊 『別冊企業会計 企業会計制度の再構築』 伊藤 邦雄 責任編集/中央経済社/2400円(本体)  国際会計基準(IFRS)に対する日本の対応が決まり、今、日本版IFRS(J- IFRS)の作成が進められている。これがどんな意味を持っているのか。日本の企業会計制度にどんな影響を及ぼすのか。関心の高いテーマについて会計学者、法学者、実務家らの論文や座談会で構成したのが本書である。トライアングル体制と言われる日本の会計制度が再構築を迫られていることが分かる。

  まず、日本版IFRSとはどのようなものか。

  IFRSを丸呑み(アドプション)するのでなく、個別基準ごとに一部を削除、修正して自国基準へ取り込む(エンドースメント)手続きでつくられる。その作業を負託されたのが企業会計基準委員会(ASBJ)である。ASBJでは、これまで2度、日本基準とIFRSの比較分析をしており、日本が受け入れることが難しい可能性のある項目として、のれんの非償却や開発費の資産計上など6項目を指摘している。西川郁生委員長(慶応義塾大学教授)は今回の作業の議論の出発点は、過去2度の比較分析と同様の手続きになるとしている。

  日本版IFRSでのれんや開発費の扱いがどうなるのか。IFRSからの変更がどの程度、認められるのか。伊藤邦雄一橋大学教授は削除・修正の余地は狭いと言う。岩崎伸哉公認会計士も重大な乖離が生じてしまうと、もはやIFRSの適用とは国際的に認められなくなるし、日本の真剣度が疑問視され、むしろ逆効果を生じる懸念もあると指摘している。日本版IFRSの適用企業数を増やすため日本企業に受け入れられやすくすることと、国際的に発言力を強めようとすることは二律背反の関係にあるのだ。ASBJは難しい舵取りを迫られている。

  では、日本版IFRSは日本の企業会計制度にどのような影響を与えるのか。

  一つは会社法の分配(配当)規制との関連だ。IFRSの問題はこれまで連結財務諸表・連結計算書類にとどまっていた。金融商品取引法を前提とする会計基準の世界だけですんだのだ。ところが、日本版IFRSがつくられ、将来、利用が増加すれば、当然、日本版IFRSを単体財務諸表・計算書類の作成でも認めるべきだという動きになる。今のところ連単分離を掲げているが、連単一致が自然な姿だからだ。

  会社法の分配規制は、現在、基本的に単体ベースで行われている。しかし、日本版IFRSで単体もつくられるようになると、IFRSの根底にある公正価値会計の考え方が反映され、未実現の評価益が利益に含まれるようになる。包括利益を会社法上の利益ととらえれば、包括利益の範囲内であれば、どんどん配当できてしまう。その結果、会社の体力は弱まり、倒産の引き金につながることにもなる。伊藤教授は座談会でこう心配する。

  これを防止するため、一定の未実現の利益を除外しようとすると、分配可能額を算定する会社計算規則がますます複雑化する。経営者が読み取ることは難しくなるばかりだ。弥永真生筑波大学教授は分配可能額が適切かどうかを第三者にチェックしてもらう方法も一つの選択肢としている。また、神田秀樹東京大学教授は次のように言う。分配規制は過去の制度をそのまま引きずっていて、なぜあるのかが自明ではない。IFRSを単体に任意適用すると、従来の分配規制がもっていた問題点がより顕在化してくる。上場会社については、分配規制は撤廃してもよいと思う、と。

  もう一つは税法との関係だ。

  税法は会社法に基づく確定した決算により、課税所得金額と法人税額を申告する確定決算主義をとる。従って日本版IFRSが単体にも任意適用されると大きな影響が及ぶ。

  齋藤真哉横浜国立大学教授は、IFRSの会計思考と法人税法の会計思考の違いを指摘している。IFRSの会計思考はこうだ。投資家は、企業に流入する将来の正味キャッシュフローの金額や時期、不確実性を評価することを支援する情報を欲しがっている。それで企業に流入する将来キャッシュフローに影響が生じる原因があった時点で損益計算に反映させていこうとする。

  これに対し、法人税法の会計思考は二者間において物財やサービスが実際に移動したときに課税所得計算に含められる事象が生じていると考え、その移動はその時の時価をもって行われると考える。

  このように思考が異なるから当然、会計処理の仕方も異なってくる。IFRSは資産や負債の評価益を積極的に考慮する。市場価格が不明な場合であっても、公正価値測定を試みる。

  これに対し、法人税法は、課税の中立性などから企業内部で恣意的に処理される可能性のある資産や負債の評価には慎重になる。

  トライアングル体制とは金商法を前提とした会計基準、会社法における会計規制(分配規制など)、会社法に基づく確定決算主義を原則とする税法から構成され、互いに緊張関係と依存関係を維持しながら制度全体として効率性と平衡性を保ってきた。

  この体制に揺らぎを引き起こす契機になったのが、IFRSを通じた会計基準のグローバルな収斂の動きである。今回の日本版IFRSの導入で、さらに揺らぎが増し、金商法会計、会社法会計、税務会計が乖離していく可能性がある。今後、企業会計制度の再構築を巡って本格的な議論を盛り上げていく必要がある、と伊藤教授は問題提起している。

  日本が直面する重大な課題を教えてくれる書物である。

(川端久雄〈マール編集委員、日本記者クラブ会員〉)

 

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