[書評]

2015年2月特大号 244号

(2015/01/15)

今月の一冊 『経営者支配とは何か』

 今井 祐 著/文眞堂/2000円(本体)
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今月の一冊 『経営者支配とは何か』  今井 祐 著/文眞堂/2000円(本体)  今日の大会社は巨大な経済力を持ち、経営者が実質的に支配している。これは避けられない現実である。では、どういう条件があれば経営者支配に正当性を与えることができるのか。本書はその条件を探り、会社が社会のために貢献するものになる道を提案している。

  経営者支配を明らかにしたのは1932年のバーリとミーンズの著書『近代株式会社と私有財産』である。株式所有の分散化などによる株主(所有者)は支配力を失い、代わって経営者が支配力をもつようになったと論じた。近代株式会社は私的所有を解体し、巨大化への道を進む。こうした会社を支配している経営者をどう規律づけたらよいのか。今日のコーポレートガバナンス論の萌芽はここにある。

  米国では、60年代以降、この議論が盛んになり、70年代には、経営者の利益と株主の利益と一致させるように仕向けるエイジェンシー理論が展開された。また、エンロン事件など経営者支配を原因とする不祥事が起こるたびに規制が強化されていった。

  最近では、英国のスチュワード(執事、財産管理人)の考え方を中心においたコーポレートガバナンス論も盛んになっている。日本でも機関投資家向けにスチュワードシップ・コードができ、さらに会社のあるべき姿を示すコーポレートガバナンス・コードの策定が進む。

  では、日本の経営者支配はどうなっているのか。著者は、行き過ぎた経営者支配の現実を指摘する。社長(経営者)の権力が強く、取締役会が機能していないこと。株式持ち合いなどで安定株主比率が過半数を超える企業が多いこと。機関投資家などの議決権行使が消極的だったこと。こうしたことから、社長が実質的に提案する取締役選任議案がすんなりと承認されている。ムラ社会的な取締役会構成の下で、社長がワンマン経営に陥り、暴走しても、歯止めがかからない。最近のオリンパス事件はその象徴であろう。これでは、経営者支配に正当性はなく、株式会社は発展しない。

  では、どうすればよいのか。著者は、正当性の条件を考えるにあたって大切なことは、「会社は何のためにあるのか」だという。会社を経営者が支配している以上、会社の所有者は誰かを議論してもあまり意味がないのだ。

「会社は何のためにあるのか」といえば、間違いなく社会のためにある。従ってまず、「会社は社会の公器である」との立場に立つ。そのうえで、会社を取り巻く様々なステーク・ホルダーから信頼と共感が得られるような明確な経営理念を持ち、経営者が社会から信認される。経営者の権力行使は、制度面からも牽制が必要で、社外取締役もその一つとして位置付けられる。

  こうした制度による他律的ガバナンスのほか、経営者良心による自律的ガバナンスも欠かせない。経営者は道徳的リーダーシップをもち、高い倫理基準を守ることが求められるというのである。経営倫理学の視点から経営者支配の正当性の条件を補強している。

  経営者良心の生きたお手本は日本にもある。我が国の「資本主義の父」と言われる渋沢栄一は、『論語と算盤』で富をなす根拠として正しい道理を唱えた。京セラ創業者の稲盛和夫氏は、「心の経営」と部門別採算管理(アメーバ経営)で、経営破綻した日本航空をみごと再建に導いた。同氏は物事の判断に際し、いつも「動機善なりや、私心なかりしか」と自分に問いかける。結局、経営者支配に正当性を与えるのは、最後は人間なのだ。

  著者は一橋大学商学部を卒業し、富士写真フイルム(現富士写真フイルムホールディングス)に入社し、副社長や子会社の社長などを歴任した。今は、経営・経済研究所を主宰しながら日本経営倫理学会の理事などを務める。経営の現場を体験した人物の提言だけに空理空論でない説得力がある。

川端久雄<編集委員、日本記者クラブ会員>
 

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