[書評]

2009年8月号 178号

(2009/07/15)

BOOK 『企業結合法の総合的研究』

森本滋編著商事法務6400円(本体)
企業結合とは、親会社と子会社といった支配従属の関係にあることだ。こうした企業グループが形成されると、親会社の取締役が、限られた責任のもとに自由奔放に支配権を行使できる。この結果、2つの問題が生ずることについて、大隈健一郎博士が1950年代から指摘していた。ひとつは親会社株主の「株主権の縮減」であり、もうひとつは子会社の少数株主の社債権者化である。前者は、事業の運営や組織再編が子会社で行われ、親会社株主が関与できなくなることである。後者は、子会社の支配株主や親会社が子会社の利益や財産を奪い、子会社の少数株主や債権者が犠牲になることである。
日本でも1990年代になり、純粋持株会社が解禁され、株式交換・移転制度が出来ると、親子関係創設目的の組織再編が進んだ。さらに、企業経営上の必要からTOBが活発になった。こうして、「パンドラの箱をあけた」かのように企業結合が広がった。メガバンクの統合に際し、傘下の銀行が行った実質的な支配権の移動に親会社の株主が関与できないなど、学者が危惧した問題が現実に生じている。
法務省も早くからこの課題に取り組んでいた。98年に「親子会社法制等に関する問題点」を公表し、意見照会が行われた。その後、結合関係の開示・監査、親会社株主の株主権の拡大の法改正が行われてきたが、不十分なうえ今の会社法では以前より株主・債権者保護システムは脆弱化している。こうした問題意識から2008年度の私学学会のシンポジウムが開かれた。そこで報告された論文が本書の第1篇にまとめられている。企業結合の形成段階、運営段階などで生じる問題点が示され、立法論の提案がなされている。
会社法で合併対価の柔軟化や全部取得条項付種類株式が認められ、組織再編行為による少数株主の締め出しが容易になった。対価の公正性の確保につき、規制緩和を基調とする会社法は開示規制に留めているが、利益相反性が強い支配従属会社間の組織再編では、開示規制では不十分だとして、検査役の調査が必要とする実体規制の提案がされている。また、TOB後の残存株主の締め出しについては、90%超の取得を要件に買付者に認めるべきだとする。理由として、多数決で社員権を強制的に剥奪することは認められないが、10%未満の少数株主はもはや社団の社員権に値しない、という理論的根拠が示される。
企業結合の形成段階では、敵対的買収と防衛策の関係をどう考えるかの問題がある。敵対的買収の局面では、対象企業の財産などの収奪という第2の問題が鮮明になる。これを防止しようと日本でも防衛策が普及した。買付者を潜在的支配株主とみて、「支配株主の義務」という概念により金融商品取引法と会社法にまたがる今の制度を再構築する提案がされている。これにより、企業結合が総合的に規制できるようになるというのだ。
第2篇には、米、英、独、仏の4カ国の企業結合規制の歴史と現在の姿についての比較法的研究の論文が掲載されている。欧州の制度を参考に、日本法への示唆も示されている。
京都大学は学術創成研究「ポスト構造改革における市場と社会の新たな秩序形成」と題して、会社法などの規制緩和傾向を再検討し、自由と共生による国民経済の発展を支える法的枠組み作りに取り組んでいる。企業結合法もこの枠組みづくりの一環で、研究会が組織された。米国の会社制度が揺らぐ中、欧州各国の姿を紹介する本書は貴重である。(青)

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