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[書評]

2016年3月号 257号

(2016/02/15)

今月の一冊 『M&Aの労務デューデリジェンス』

 社会保険労務士法人野中事務所編者/中央経済社 /3200円(本体)

今月の一冊 『M&Aの労務デューデリジェンス』 社会保険労務士法人野中事務所編者/中央経済社 /3200円(本体)  M&Aを実行するに当たり、今や買い手企業にとって対象企業のデューデリジェンスは欠かせない手続きになっている。財務、法務、ビジネスなどの分野に分かれ、それぞれ専門家の力を借りながら行われている。これらは主に大企業を念頭に置いたものだが、最近中小企業を対象にしたM&Aも増加している。こうしたM&Aで一番問題になるのは、残業手当の未払いなど労務面での問題だ。社会保険労務士という立場から、長年、この問題を扱ってきた事務所が労務デューデリの重要性を訴え、同時にそのノウハウを紹介している。

  M&Aで対象企業の人の問題についてもデューデリが行われる。本書では、社風やキーパーソンの確認など定性的なことをテーマにするものを人事デューデリとし、未払い賃金、社会保険料の未納など定量的なものをテーマにするものを労務デューデリと区分する。労務デューデリにより「労働に由来する債務(隠れ債務)をあぶりだす」のだという。隠れ債務には、簿外債務と偶発債務がある。

  まず、優先して取り組む必要があるのは、簿外債務になる事項である。会計帳簿に記載されていないため、財務デューデリだけではつかめない。この調査を怠って、将来、損害が発生すると、買い手企業の取締役は善管注意義務違反を問わる恐れもある。これを義務的調査事項としている。

  例えば、対象企業で、最低賃金法が定める最低賃金額を下回る賃金で労働契約を締結し、賃金を支払っていたのであれば、その差額が未払い賃金であり、簿外債務となる。小売業、食品製造業など5業種では、毎年多くの事業所で違反が発覚していて、対象企業がこうした業種に当たる場合には注意が必要としている。

  こうした未払い賃金のほか、退職給付債務、社会保険料・労働保険料の適法性、労働組合との労働協約等、障害者雇用など7項目を義務的調査事項としてその法的根拠などを解説している。

  さらに、可能なら、将来、偶発債務になるリスクがある項目についても調査するのが望ましいという。これを任意的調査事項とし5項目を挙げている。

  例えば、名ばかり管理職の問題がそうだ。日本マクドナルド事件の判決で、管理職には残業手当を支払わらなくてもよいという職場慣行は法的に否定された。労働基準法上、残業手当を支払わなくてもよい管理監督者は極めて狭いのだ。にもかかわらず、部長に昇進すると、役職手当だけで、残業手当は一切支給されないケースは多く見受けられる。予備校の校長が管理職手当として月額5万円支給されているが、「名ばかり校長」で残業手当を計算し直して、1カ月の未払い賃金が5万円とした場合、こうした校長が10人いれば、それだけで時効にかからない偶発債務は1200万円に上ると試算例も挙げている。

  労務デューデリの結果、こうした隠れ債務が発見されれば、売買価格に反映されたり、スキームが変更されたりする。場合によっては取引自体の中止もある。対象企業にとって思わぬ事態に陥ることとなる。

  では、どうすべきか。対象企業側で、常日頃から適正な労務管理をして、労務デューデリで隠れ債務を指摘されないようにしておくよう提案している。そうすれば、円滑なM&A取引が実現される。M&Aでハッピーリタイアーを目指す中小企業の経営者にとって、大切な視点であろう。

  と同時に、たとえ、将来のM&A取引の障害を取り除いておくという観点からであれ、労働法を遵守する経営が行われば、結果としてそこで働く人々の労働条件や労働環境の改善とに繋がる。編者の代表社員、野中健次氏はこれを望外の幸せという。心無い「首切りブログ」で社会保険労務士の信用と品位を汚した人もいるが、本書は人間的な温かみを感じさせてくれる。

(川端久雄〈マール編集委員、日本記者クラブ会員〉)

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