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[書評]

2016年5月号 259号

(2016/04/15)

今月の一冊 『会計規制の研究』

 大石 桂一 著/中央経済社/4200円(本体)

今月の一冊 『会計規制の研究』 大石桂一著/中央経済社/4200円(本体)  会計規制とは、一言で言えば、会計基準(財務諸表を作成するルール)の設定を国家が行うことである。しかし、実際は多くの国では国家や政府機関が会計基準を設定するようなことはせず、民間にアウトソース(委託)している。最近では、国際レベルでもそうなっている。本書はアウトソースを基本的な発想に置き、会計規制のあり方や変化を論じている。米国の証券取引委員会(SEC)誕生のドラマや世界金融危機後の国際会計基準審議会(IASB)の対応など、学術書ながら興味深い記述に溢れている。

  著者によると、今日の会計規制の枠組みの源流ができたのは、1930年代の米国である。1929年の株価大暴落をきっかけに、証券2法がつくられ、SECに会計基準を設定する権限が付与された。国家は自らの責任で会計基準を整備することを選択したのだ。ところが、SECはこの権限を行使せず、民間のアメリカ会計士協会に委託した。理由は、SECに自ら会計基準を設定するためのリソース、とりわけ専門能力をもった人材が不足していたからだ。

  ところが会計士協会側には大きな問題があった。当時の会計士は専門的能力を持っていても、会計基準を明文化して自分の手足を縛るようなルールを望まず、しかも経営者寄りだった。こんなエピソードも紹介されている。投資家側に有用な情報を望むSECは、損益計算書で総売上高と売上原価の開示を求めていた。ところが、会計士側はそのような情報は企業機密に関わることで一律に開示を求めることは、企業の競争力にダメージを与えかねない、開示の方法と程度は経営者と会計士の判断に任せるべきだ、と反対していた。

  SEC側はこうした姿勢の会計士側に圧力をかけたり誘導したりして、何とか経営者からの独立性や中立性を確保させ、アウトソース先にふさわしい主体に変えていった。こうして、1939年に「連邦議会(国家)―SEC―民間」の三層構造からなる会計規制の枠組みが成立した。ただし、会計基準を最終的に承認する権限はSECが確保している。

  著者は、こうした会計基準設定のアウトソース仮説を確認するため、いくつかに分解した仮説を設定し、史実を丹念にたどりながら検証し、アウトソース仮説がほぼ成立することを確かめている。その手法も興味深い。

  ただ、その後も会計士側の経営者寄りの姿勢はたびたび批判を呼び、会計士協会も組織を改編するなどしたが、根本的に問題は解決せず、1973年に「いかなる利害からも独立した専門家で構成される」財務会計基準審議会(FASB)が設立された。

  こうして米国では三層構造の枠組みの下、証券規制(ディスクロージャー)を目的に会計基準が設定されることが源流になったが、その後、変化も起きている。

  その一つは、証券規制だけでなく複数の規制(政策)目的で会計基準が設定されるようになったことだ。70年代のエネルギー危機に際し、石油・ガス会計基準が設定された。通常の証券規制目的に加え、エネルギー政策目的にも資する会計基準が求められ、圧力に屈したSECはFASBが決めた会計基準の案を覆してしまった。また、80年代の第2次S&L(貯蓄貸付組合)危機では、今度はSECは進んで、銀行規制目的も取り込もうと、一般目的の会計基準(GAAP)への時価会計の導入をFASBに指示した。SECの銀行規制機関との縄張り争いが、時価会計のGAAP化とその後の公正価値会計の拡大の契機になった可能性があると指摘している。

  もう一つの変化は、グローバル化の進展によって起きている。会計基準設定のアウトソース先は、今や国内にとどまらず、地域・グローバルレベルに広がっている。現に国際的な民間主体であるIASBは複数の国家・地域・規制機関から会計基準の形成をアウトソースされている。EUはいち早く地域レベルで会計基準の設定をIASBにアウトソースした。

  さらに、世界金融危機後、IASBは銀行・証券・保険にまたがる国際金融規制のネットワークの結節点に位置するようになり、グローバル・ガバナンスの一翼を担う機関になっている。このため、IASBは単なる財務報告のための基準(IFRS)を設定する機関ではなくなっている。こうした会計規制の枠組みの変化が会計基準の形成にどのような変化をもたらすのか。国家や規制機関から強い圧力を受け、IASBは資本市場の市場参加者だけでなく、極めて複雑な利害を調整しなければならず、かえって市場参加者が望まない基準を生み出す危険性を孕んでいると結んでいる。

  著者は本書で過去の自己の研究内容を一部否定していて、その点に敢えて言及している。前著では会計士側の求めに応じて、SECが会計基準設定をアウトソースしたというストーリーを想定して記述していたが、実際は逆で、本書ではむしろSEC側が会計基準設定主体になりたがらない会計士側を誘導して、ふさわしいアウトソース先にしたとしている。学問に誠実で研究者の良心を見る思いがした。

(川端久雄〈マール編集委員、日本記者クラブ会員〉)

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