[【法務】事業承継M&Aの法務(ソシアス総合法律事務所 高橋聖弁護士)]
(2018/01/17)
はじめに
第2回では、事業承継M&Aにおいて最も典型的な手法である株式譲渡取引で用いられる株式譲渡契約について、実務上問題となることが多い表明・保証と補償責任について解説しましたが、本稿では、少し視点を変えて、そもそもM&Aという手法でオーナー企業の事業を承継する場合に生じ得る法的な問題点について、そのうちの主なものをいくつか取り上げて解説したいと思います。
従業員の承継
オーナーが会社を手放すにあたり、会社の発展・成長のために尽力してくれた従業員の行く末を案じることは当然のことであり、多くの事業承継M&Aにおいては、従業員の雇用の継続確保が、売手であるオーナーにとって最重要課題の一つとなります。最初に、以下、各M&Aの手法別に、従業員の雇用契約の承継に関する法律上の取扱いについて整理してみます。
(1)事業譲渡の場合
事業譲渡の場合には、譲渡の対象となる事業に従事する従業員であっても、その雇用契約が買手会社に自動的に承継されることはありません。買手会社が承継したいと希望する従業員については、各従業員から個別に同意を得る必要がある反面、従業員側が欲したとしても、買手会社側で受け入れる意思がなければ、承継することを強制することはできません。すなわち、買手会社との間で合意が成立した従業員のみが承継されることになります。
もっとも、多くの事業譲渡においては、買手会社が事実上従業員を承継する場合でも、従前の雇用契約の内容をそのまま承継せずに、個別に同意を得た上で、従業員には一旦対象会社から退職してもらい、買手会社においてこれら従業員を新たに雇用するという方法が取られます。
(2)合併の場合
合併においては、(対象会社が消滅会社となる場合)対象会社の有する権利・義務は包括的に存続会社である買手会社に承継されますので、すべての従業員の雇用契約が買手会社に承継されることになります。
(3)会社分割の場合
会社分割が活用される場合には…
■筆者略歴
高橋聖(たかはし・きよし)
1993年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。株式会社リクルート勤務を経て、1999年より弁護士としてTMI総合法律事務所にて、主にM&A、国際取引、一般企業法務等を取り扱う。2015年にソシアス総合法律事務所を開設し、現在は、事業承継案件を中心に、多数の非上場会社売却案件に売手・買手のリーガルアドバイザーとして関与している。
University of Virginia School of LawにてLL.M.(法学修士号)取得。第一東京弁護士会所属弁護士・米国ニューヨーク州弁護士。
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