[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2017年6月号 272号

(2017/05/18)

第147回 運輸・物流業界 宅配便で明暗を分けたヤマトHDとSGHD~日立物流との統合を視野に入れたSGHDの資本提携戦略に注目

 編集部
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経営を圧迫する人件費

  全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2016」によると、トラック、鉄道、外航海運、航空、倉庫など、わが国の物流事業全体の市場規模は約26兆円。このうち、トラック運送事業の市場規模は物流市場全体の約6割を占めている。このトラック運送事業は、典型的な労働集約型の事業で運送コストのうち人件費の比率がもっとも高く、全国平均では14年度で38.8%にのぼっている。総務省の調査によると、15年のトラック運送事業に従事する就業者数は全体で約185万人、このうちドライバー等輸送・機械運転従事者は80万人と2年連続で減少している。

  貨物のなかでも、インターネット通販の拡大を背景に大きく伸びているのが宅配便貨物である。16年の宅配便貨物の取扱個数は約38億6896万個となり、6年連続で過去最高を更新し、取扱個数は10年で9.4億個増えているという。一方で、厚生労働省によると、宅配サービスなどを含む「自動車運転の職業」の17年1月の有効求人倍率は2.68倍と全産業平均の1.36倍を大きく上回り、ドライバーの高齢化も深刻な問題となっている。

宅配便の基本運賃値上げに踏み切るヤマト運輸

  こうした中で、宅配最大手のヤマト運輸が17年9月にも宅配便の定価に当たる基本運賃を5~20%程度引き上げるという方針を打ち出した。ヤマト運輸が発表した16年度の宅配便取扱数は前年度比7.9%増の18億6756万個となり2年連続で過去最高を更新。このうち1~2割がアマゾンの荷物だといわれる。ヤマト運輸がアマゾンから受け取る運賃には大口割引を適用していることから収益性も悪く、労使交渉で労働組合と配達員の負担を軽減する働き方改革で合意。宅配便の総量抑制や時間帯指定サービスの一部廃止を決めるとともに、過去2年間の未払い残業代を約190億円の支払いを決定した。

  このため、同社の親会社であるヤマトホールディングス(HD)の17年3月期の業績予想は、売上高1兆4600億円は変わらないものの、営業利益予想は従来の580億円から340億円(前年実績は685億4000万円)、純利益予想は同340億円から190億円(同394億2400万円)へと下方修正を余儀なくされることになった。

  ヤマトHDは、1929年の路線便事業、76年の宅急便に続くヤマトHDとしては3度目のイノベーションとして「バリュー・ネットワーキング構想」を進めている。これは、物流改革を通じて日本の成長戦略に貢献するという構想で、12年に稼働した「沖縄国際物流ハブ」のほか、13年に稼働した「厚木ゲートウェイ」、「羽田クロノゲート」といったスーパーハブを中核として、国内ばかりでなく国際的なB2B(企業間)やB2C(企業対個人)の物流事業を強化しようという戦略である。しかし、今回の宅配便問題を契機に営業収益の78.5%を占めるデリバリー(宅配)事業をどのように改革して行くのか、難題が突きつけられている。

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