1. はじめに
2024年4月17日、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(米国 ワシントンDC)は共同声明において、①ウクライナの支援にロシアの凍結資産を活用し得る、全ての可能な方策に関して作業を継続すること、②ロシアがその軍事産業基盤のための先進的な資材、技術、そして装置を獲得することを妨げる措置を引き続き発展させること、③イランによる地域の活動の不安定化を支える武器の取得・製造・移転を行う能力を減退させるために将来措置をとる場合には、緊密な調整を確保すること、が宣言された。
租税分野での国際的な取り組みでは、デジタル課税の国際的課税ルールに関して、①2024年6月末までに第1の柱の多数国間条約の署名を行うため、OECD/G20「包摂的枠組み」(以下、包摂的枠組み)における作業の最終化に対して引き続きコミットすること、②各国で国内法制化が進展している第2の柱(グローバルミニマム課税制度)の一貫性ある実施を確保するために包摂的枠組みにおける作業を支持すること、また、国際租税協力に関する枠組み条約を策定するために国連で開始された議論(以下、「国際租税協力に関する国連決議」)に留意し、安定した国際課税制度を支援することも宣言された。
国際租税協力に関する国連決議は、2023年11月22日の国連総会(第78会期)で、国連による包括的、効果的な租税の国際協力を促進する議案(“Promotion of inclusive and effective international tax cooperation at the United Nations”)が採択されたものであり(注1)、2024年8月までに国際租税協力に関する枠組み条約の草案を作成し、2024年9月の国連総会(第79会期)で進捗状況の報告が予定されている。
これまで、国際的な租税制度の枠組みはOECD租税委員会が中心となって、ガイドラインやモデルルールの策定が行われてきたが、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの進展や、国連における「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の採択(2015年9月)、さらには中国、インド等の非OECD加盟国の世界経済での地位の向上等により、国際的な租税制度策定への非OECD加盟国の参画が求められるようになったと考えられる。
本稿では、最近の国際環境の状況下での国際課税制度の進展や我が国の対応を中心に解説し、投資活動への影響についても触れる。
2. OECD/G20「包摂的枠組み」とBEPS2.0
■筆者プロフィール■
荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。