これまで本連載において、Q&A形式でさまざまな評価手法や論点に触れてきたが、締めくくりとなる最終回では、コラム形式で基礎的な項目に焦点を当てていきたい。評価の専門家であれば、当然に理解・実践できていなければいけない内容といえるが、実務において指摘事項となることが多い点でもある。プロのスポーツ選手は基礎練習を繰り返すと言われるが、それと同じ気持ちで、一見当たり前とも思える論点を原点回帰して深堀りしていくこととする。
評価とは? 評価にあたっての前提条件が記載され、用いた評価手法の説明があり、結果も一覧表として整っていれば、体裁としては評価報告書を形成しているように見えるが、実際のところ、「評価」と呼べるか疑わしいものもある。評価になっているかどうかは、評価の定義次第でもあるので、ここでは評価について「計算」と「算定」という2つの表現を使い分けることで説明したい。
まず知っておきたいのは、評価人が受領情報を所与のものとしていたら、それは「計算」の代行にすぎないということである。評価人が受領情報(
企業価値評価であれば特に事業計画)の蓋然性を検討し、この状況において評価人自身が当事者であったら妥当と考える価格水準はどの程度かという検討がなされて初めて(計算ではなく)「算定」となる。企業価値評価にあたっては、受領した事業計画を評価人の主観で変更してはならないという思いを持つ人も多いが、企業価値を算定する際には必然的に評価人の主観が介在することを認識しておく必要があろう。
■筆者プロフィール
中道 健太郎(なかみち・けんたろう)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー
トロント、ニューヨークでの監査経験を経て、1997年に来日。金融機関・金融商品・不良債権の評価、海外資源・インフラ案件の評価、機械設備の評価、訴訟・競争法関連の評価・証言を含め、幅広い業種・状況におけるバリュエーションサービスに従事、現在に至る。
■監修者プロフィール
鷺坂 知幸(さぎさか・ともゆき)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー、バリュエーション&モデリング統括、公認会計士。
有限責任監査法人トーマツ入社後、米国会計基準を含む大手金融機関の監査業務に従事。その後デロイト トーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に転籍し、無形資産価値評価、米国基準、国際会計基準ののれんの減損テスト支援、株式価値および事業価値評価等のバリュエーションサービスに関する業務に従事、現在に至る。