[M&A戦略と会計・税務・財務]

2025年5月号 367号

(2025/04/09)

第212回 東南アジアにおける人事・人材マネジメントの論点

平野 圭祐(PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー)
  • A,B,C,EXコース
1.  「人材の現地化」

 東南アジアは、日系企業が早くから海外進出していた地域の1つであり、当地では地域に根差した事業運営に成功している日系企業も少なくない。筆者は、2000年代から2010年代にかけて、タイを含む東南アジアに数度駐在し、当地で操業する日系企業の海外現地法人を顧客とした人事コンサルティングを行ってきた。そのなかで、多くの日系企業が現地の人材マネジメントに苦心している姿を見てきたことから、本稿では、その背景およびM&Aを検討する際の示唆を紹介したい。

 まず、海外拠点のマネジメントにおいて必ずと言っていいほど耳にする「現地化」という言葉が人事の文脈でどのような意味を持つだろうか。一般的に、日系企業のビジネスにおいて現地化というキーワードを用いる際には、日本のオペレーションの海外移転に伴う現地最適化を指すことが多いだろう。人事の現地化については、経済産業省製造産業局による「グローバル競争力強化に向けたCX研究会」の検討資料を引用する。

「日本企業はこれまで日本人駐在員を現地法人に派遣して統治(略)してきたが、この10-15年の海外ビジネスの急拡大に伴う、海外現法のマネジメントを担える人材の質的・量的不足により、既にこのモデルは維持できなくなっている。こうした背景に加え、途上国市場の拡大に伴う現地のマーケティング強化の観点からも、現地化(略)を現在進行形で進めている企業も多い」
(「第3回 グローバル競争力強化のためのCX研究会 事務局提出資料」(2024年2月16日))
 この用法に倣うと、人材の現地化とは、過去に行われてきた日本人の駐在員を中心とする海外拠点の経営や事業の管理手法を現地の人材に移転するだけでなく、その狙いとして、より現地に根差した事業推進・展開を現地人材に期待している様相が窺える。その背景には、海外現地法人の位置づけの変化、すなわち、「グローバルなサプライチェーンの一角から、現地のマーケットニーズの開拓・深耕へ」の流れがあったものと解釈するのが自然だ。さらに言うと、これまで海外での事業推進を担ってきた日本人駐在員による運営モデルが、現実的に限界に達していたためといえるだろう。

2. 海外現地法人の人材課題

 大胆な転換に読める人材の現地化は、果たしてどこまで実現できているだろうか。筆者が東南アジアで接してきた顧客の声からは、現地での人材マネジメントの課題が山積しているように感じる(図表1)。



■筆者プロフィール■

平野 圭祐(ひらの・けいすけ)
PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー 専門分野 組織・人事アドバイザリー
総合コンサルティングファームの人事コンサルティング部門を経て現職。豊富な海外経験に裏打ちされた日系企業のグローバル人事戦略の策定や海外進出支援(地域統括・海外現地法人の設立・人事制度設計と運用・人材育成など)、クロスボーダーのM&A(人事デューデリジェンス・PMI)を多数手がける。

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