[M&A戦略と法務]

2022年5月号 331号

(2022/04/11)

公開買付けにおけるFiduciary Out条項の考察

池田 賢生(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
安藤 智哉(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
第1 はじめに

 2022年1月12日に、株式会社かたくらによる片倉工業株式会社に対する公開買付けMBO)(2021年11月9日開始、公開買付価格2,150円)が不成立となったと公表された。当該公開買付けにおいては、株式会社かたくらは、2021年11月8日付で、片倉工業株式会社の筆頭株主であったOasis Management Company Ltd.との間で、公開買付けへの応募契約を締結していたが、2021年12月20日に、Oasis Management Company Ltd.は、保有する片倉工業株式会社の株式を、株式会社鹿児島東インド会社に1株2,350円で売却した。このように、Oasis Management Company Ltd.が当該公開買付けに応募せず、第三者に株式を売却したことが公開買付けの成否に与えた影響は大きいものと推察される。

 この際、Oasis Management Company Ltd.が応募契約を締結していたにもかかわらず、応募せずに第三者に売却した際に根拠としたのが、応募契約中のFiduciary Out条項であった。

 公開買付けに関連する契約においては、Fiduciary Out条項が設けられることが珍しくないが、当該条項の規定の仕方によっては、このように、公開買付けの結果に大きな影響を及ぼすこととなる。そこで、本稿では、公開買付けにおけるFiduciary Out条項の概要や留意点について、実際の事例を踏まえつつ整理したい。

第2 公開買付けにおけるFiduciary Out条項

1 Fiduciary Out条項とは

 Fiduciary Out条項とは、米国のM&A取引契約に由来するものであり、元来は、M&A取引契約において一定の取引保護条項(M&A取引の実現可能性を高めることを目的として導入される条項をいう。代表的なものとして、対象者に対し、競合する買収者との交渉や情報提供をすべて禁止するNo-Talk条項、買収者以外の第三者に対して当該M&A取引と抵触する買収提案を勧誘する行為を禁止するNo-Shop条項等が挙げられる。)が設けられた際に、対象者の取締役の信任義務(Fiduciary Duty)を尽くさせるために、一定の要件を満たした場合に、対象者が当該取引保護条項の義務から離脱することを認めるものである。

 日本の公開買付けにおいては、Fiduciary Out条項は、(a)公開買付者と株主との間の応募契約において規定される場合と、(b)公開買付者と対象者との間の契約において規定される場合がある。以下、(a)、(b)ごとに、その内容や留意点について検討する。

2 株主との間の応募契約におけるFiduciary Out条項

(1)概要

 公開買付けに際し、一定割合を保有する大株主が公開買付けに応募してくれるかどうかにより公開買付けの成否が決する場合もあるため、公開買付者と当該株主との間で、公開買付けの開始に先立ち(通常、公開買付けの公表日に)応募契約が締結され、公開買付者側の要請により、公開買付けが実施された場合には、株主が、その保有する株式について公開買付けに応募する義務を負う旨が定められることがある。

 株主との間の応募契約におけるFiduciary Out条項とは、

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