[M&A戦略と法務]

2014年3月号 233号

(2014/02/15)

事業承継M&Aにおける株式の帰属に関する問題点

 高橋 聖(TMI法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース

1. はじめに

  中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(平成21年経済産業省令第22号)等の一部改正省令が、平成25年7月1日に公布され、いわゆる事業承継税制の適用が拡充されることとなった。これにより、原則として、平成27年1月1日以降に相続等により取得する財産に係る相続税等については、①納税猶予制度の適用を受けられる者が先代経営者の親族以外にも拡張される、②先代経営者が贈与後に引き続き会社の役員として残留することが可能となる、③相続又は贈与時以降の雇用確保要件が5年間平均での8割以上の雇用維持へと緩和される等の見直しが行われることとなった。

  近時、中小企業における後継者不在の問題が深刻化しているところであるが、上記事業承継税制の改正は、相続や贈与による後継者への事業承継を促進する施策として評価できる。もっとも、事業承継税制の適用を受けられるのは、同族関係者で発行済株式総数の過半数を保有する場合で、かつ先代経営者が筆頭株主である場合等、一定の要件を充足する中小企業に限定されており、また、納税猶予の適用を受け続けるためには、後継者が相続・贈与を受けた株式を継続して保有することや、5年間会社の代表者を務めることが要求される等、経営環境の変化に応じた柔軟な対応を阻害する事態も想定される。さらには、20年前には中小企業の親族内での事業承継の割合が90%以上であったのが、現在では、小規模事業者で約75%、中規模企業では約54%にまで低下している(注1)ことからも見て取れるように、今後は、全国的な少子化傾向とも相俟って、親族内での後継者不足は進み、中小企業における「身内外」への事業承継が増加することが予想される。

2. 事業承継M&Aの特徴

  先代経営者の親族以外への事業承継の手段の一つとして、第三者への事業の売却(M&A)が挙げられる。事業承継の手段としてのM&Aに対しては、適任な後継者又は後継候補者がいない中小企業の経営者においては、その約3割が関心を持つところであり(注2)、事業承継の有力な手法として定着しつつある。

  法務的な観点から見た場合、事業承継M&Aにはいくつかの特徴が挙げられる。

  一つには、事業承継の対象となる会社には、会社設立に際して発起人が7名以上要求されていた平成2年の商法改正以前に設立された会社が少なくないため、会社の名義上の株主と実質的な株主との間に齟齬が生じている、いわゆる名義株が存在するケースが見られることである。また、多くの場合、事業承継の対象となる会社は、長年にわたって外部からの関与なく創業者一族のみによって運営されてきたため、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録等の法令上作成が義務付けられる書類が作成されていない、法令上必要とされる手続が履践されていない、過去の株主の変遷について十分に把握できない等の状態にあることも稀ではない。

  以下では、これら事業承継M&Aに見られる特徴から発生する法的問題点のうち、株式の帰属に関するものについて紹介し、実務上の対応策を検討する。

 

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