[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]

2015年7月号 249号

(2015/06/15)

第3回 『金型』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)
  • A,B,EXコース

【登場人物】(前回までのあらすじ)

  三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。半年ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
  先輩社員である伊達伸行に連れられレッディ社の工場に入った朝倉は、新興国M&Aの実態を突きつけられることとなった。プラスチック部品製造用金型の管理の杜撰さだ。



金型

  金型はメーカーの生命線とも言えるものだが、レッディ社にはその図面が保存されていなかったのだ。伊達からの説明に朝倉は驚愕した。
「インドの製造業のレベルとはそんなものなのだろうか。それとも、買収したレッディ社だけの問題なのだろうか」
  朝倉の心にはそんな疑問と共に、とんでもないところに出向させられたのではないかという不安すら覚えた。金型の重要性は、入社直後の工場研修から徹底的に叩き込まれる。また研修に限らず、製造業であればあらゆる場面で嫌というほどその重要性を学ぶ。朝倉の属する経理の側面からも金型管理は厳重に行われていたし、金型現物のメンテナンスを行う職人も各工場に多く配置されていた。
  唖然とする朝倉を気にするそぶりも無く、伊達は金型の保管場所のほうに歩き出した。汗で額に張り付く前髪をハンカチで拭いながら、朝倉は追いかけた。
「金型図面が無いことに気付き、現場でいったいどんな金型が使われているかを実際に見てみることにした。ローカル社員の製造ライン責任者を連れて、夕方にラインが止まった後に本社工場に入った。そして直前まで使われていた金型を手にとって自ら計測したんだ。そうしたら、同一であるべき二つの金型が、何ミリもずれていてまるで一致しない。しかもだ、一つの金型だけを見ても、同じ部品ができるはずの6個取りの型を計ってみると、6つ各々の形や大きさが違っていた」

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング