日本の消費財企業を取り巻く市場環境は、昨今ますます複雑になり、かつ競争が激しくなっている。まず、人口減少により、多くのカテゴリーで市場全体の需要が停滞している。そのため、1人当たりの消費シェア拡大を目指して企業は熾烈な競争を強いられている。さらに、消費者層の変化がこの課題を一層深刻化させている。消費の中心は依然としてシニア層であるが、若年層の嗜好や購買行動は著しく変化し、シニア層との相違がこれまで以上に顕著になっている。企業は伝統的な商品と革新のバランスを慎重に取る必要に迫られている。加えて、マクロ経済的な要因が企業の収益性を圧迫している。本稿では、こうした環境下にある消費財業界のM&Aのトレンドについて考察し、日本企業がM&Aを成功させる上での課題と、成功に向けたアクションを提言する。
1. 消費財業界におけるM&Aのトレンド: 3つの方向性
図表1は、2015年以降の日本の消費財業界におけるM&Aを概観したものだ。日本の消費財業界におけるM&Aには、「国内市場における統合の加速」「海外からの投資の拡大」「異種ケイパビリティ(組織能力)獲得への注力」という3つの方向性が見られる。
1-1. 国内市場における統合の加速
日産とホンダが経営統合に向けて協議を始めたことは、産業界の歴史に残る大きなニュースとなった。協議自体はその後撤回の報道があったが、国内外の競争が激化する中、日本企業に対する統合への圧力の高まりを示している。
同様の動きは日本の消費財業界にも広がっている。停滞する市場で成長と収益性の両立を図るため、M&Aによって市場でトップ3以内の地位を獲得する動きが加速している。
■ 筆者履歴

Adam・Chang(アダム・チャン)
BCGトランザクション&インテグレーションチームのコアメンバー。消費財・流通グループ、産業財・自動車グループのコアメンバー。国立政治大学(台湾) 卒業 、コンピューターサイエンス専攻。国立中央大学(台湾) 財政学修士。DBS銀行、シティバンクを経て、2015年にBCGに入社。企業のグローバル展開、市場開拓、流通戦略、サプライチェーン・マネジメント、事業再生、M&Aなどに関わる支援を行っている。BCGの中国エリアでの勤務経験もある。