[寄稿]

2022年4月号 330号

(2022/03/09)

コロナ禍における外食・小売市場M&Aの動向

谷 千晶(KPMG FAS パートナー)
高橋 恵太(KPMG FAS ディレクター)
  • A,B,EXコース
はじめに

 新型コロナの影響により外食・小売企業は大きな影響を受け、赤字や債務超過に陥るケースが増えた。一方で、比較的財務基盤の強固な企業やPEファンドは、子会社化やM&Aを通じて事業の拡大や再編を図っており、この動きは今後も継続するものと考えられる。本稿では、コロナ禍が外食・小売市場のM&Aにそれぞれどのような影響を与えてきたのか振り返ってみることとしたい。


1. コロナ禍による外食・小売市場を取り巻く環境の変化

 2021年の日本経済は、2020年に引き続きコロナの影響を大きく受ける年となった。2021年年初は2020年11月からの第3波に始まり、5月には第4波、東京五輪期間の8月に第5波、更に年末には第6波と一年で4回もコロナが猛威を振るう期間があり、且つ波が増すごとに感染者数が爆発的に増加する現象となった。

 2020年は1回であった緊急事態宣言も東京都については2021年中で3回発出され、またその期間も長期化し、2021年は1年の半分以上が緊急事態宣言下にあった。これらの緊急事態宣言による外出の自粛要請や営業時間の短縮要請で最も大きな影響を受けたのは、外食産業と言えるであろう。

 総務省の家計調査によると、2015年以降世帯における外食費用は2019年まで増加してきたものの、2020年は前年比25%減少、2021年は更に前年比約4%程度減少している(図表1)。2020年は9~10月にかけて「Go To Eatキャンペーン」が実施されたものの、落ち込みをカバーするには至らなかった。

(図表1)総務省「家計調査(二人以上世帯)」に基づく2015〜2021年の外食費用の推移(年次)

 外食産業の中でも最も大きく影響を受けたのは、酒をメインとしたパブ・居酒屋業態であり、2020年の売上高は2015年~2019年と比較して約半分に落ち込んだ。一方でもともとテイクアウトの比率が高いファーストフード業態は7%程度の減少で済んでおり、明暗が分かれる形となった(図表2)。

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