[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2023年7月号 345号

(2023/06/09)

第219回 日本プロ野球業界 プロ野球とM&Aの変遷

生島 嘉威斗(レコフ)
  • A,B,EXコース
1.はじめに

 大谷翔平VSマイク・トラウト。誰しもが予想できなかった劇的な展開で14年ぶり3度目の優勝を果たし、日本中を熱狂の渦に巻き込んだワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。その熱気も冷めやらぬうちに開幕を迎えた日本プロ野球界も、4年ぶりの鳴り物と声出し応援の解禁によって、静まり返っていた球場にも再び活気が戻りつつある。

 そんな新たな1ページへと歩み始めた日本プロ野球界において、WBC出場選手らの活躍に注目が集まる中、負けず劣らず野球ファンの注目を集めているのは、北海道日本ハムファイターズの新球場である「ES CON FIELD HOKKAIDO」ではないだろうか。同球場は、まるでメジャーリーグの球場を彷彿とさせる開閉式屋根付きの天然芝グラウンドといった、新進気鋭のスタジアムとしての機能を持ちながら、周辺エリアには遊技場やレストラン・繁華街といった、野球観戦以外のエンターテインメント性をも併せ持っていることから、一般的な「スタジアム」とは一線を画し、「ボールパーク」と言われる。

 近年「野球離れ」という言葉が浸透する中で(図表1)、新型コロナウイルスの流行によって客足が遠のく事態に直面した各球団は、先のボールパーク化といった様々な施策により新規ファン層の獲得を図っている。かつての日本プロ野球界は、たとえ球団経営が赤字でも問題視されていなかった。しかし、会社の資金使途に対する株主の目も厳しくなった現在、球団単体でも利益向上を図り、更なる成長が求められるようになっている。まさに球団運営におけるビジネス的側面が重要視されつつあると言える。

 また、そうした側面から日本のプロ野球界を論じるうえでは、オリックス・ブルーウェーブと大阪近鉄バファローズの合併(2004年)、横浜DeNAベイスターズの横浜スタジアムの買収(2015年)など、M&Aは重要性の高い出来事となっている。そこで、本稿では、プロ野球業界の歴史を、M&Aを軸に整理しながら、ビジネスとしてのプロ野球がどう移り変わってきたかを考察する。

 なお、球団をビジネス的な側面で見るため、本稿では「球団」ではなく、球団を運営する「会社」として考察する。また、日本独立リーグ野球機構(独立リーグ)に所属する球団も厳密にはプロ野球の枠組みに含まれるが、本稿における球団は、日本野球機構(NPB)に所属する12球団に限定する。

2.日本プロ野球業界のM&A

 図表2の通り、NPBの12球団は、1つの独立した会社(以下、「運営会社」という。)によって運営されている。例えば、東京ヤクルトスワローズという球団を運営しているのは、ヤクルト球団という会社であり、東北楽天ゴールデンイーグルスを運営しているのは、楽天野球団という会社である。多くの人がイメージするプロ野球における会社といえば、図表2にオーナー会社として掲げる運営会社の親会社(以下、「オーナー会社」という。)であろう。確かにオーナー会社の半数以上は運営会社の完全親会社であり、実際の決定権はオーナー会社にあると言っても過言ではない。しかし、あくまで運営会社は独立した会社であり、オーナー会社の一事業部門ではない。そのため、基本的にプロ野球業界におけるM&Aは、運営会社の株式取得・譲渡という形態によって発生する。

 また、日本プロ野球業界におけるM&Aの発生要因は、その多くが(1)オーナー会社の変更と(2)球場の自前化という2つの要因によるものである。(1)では、オーナー会社自身の財務状況悪化などを背景にしたコスト削減を、(2)では、運営会社が球場を自前化することによる収益性の改善を目的としている。
(※1)広島東洋カープに実質的なオーナー会社はなく、マツダ株式会社とマツダ創業家が多くの株式を保有している。
3. 日本プロ野球業界のM&A事例

(1) オーナー会社の変更が要因のM&A

 かつてのプロ野球球団は、親会社の「宣伝広告媒体」と言われており、運営会社が赤字となることは当然のことと認識されていた。これは、子会社である運営会社への赤字補填を「広告宣伝費」として損金処理できることを定めた、国税庁通達「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱いについて」(昭和29年8月10日付直法1-147)からも見て取れる。

 しかし、そもそもオーナー会社自身の業績が厳しい状況だと、球団(運営会社)を保有し続けることが困難になるため、手放す事例は数多い。他方、新たにオーナー会社となる企業の目的としては、社名の知名度及びブランド力向上やオーナー会社との事業シナジー創出などが考えられる。

 例えば、福岡ソフトバンクホークスのオーナー会社は、図表2の通り、今でこそソフトバンクグループであるが、

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