[企業変革手段としてのM&Aの新潮流 Season4]

2025年6月号 368号

(2025/05/13)

第3回 政治的リスクとM&A -分断が進む世界での処方箋-

田口 優(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー)
  • A,B,C,EXコース
1. 政治的分断が進む世界の中で

 近年の海外諸国の政治動向を見ると、カントリーリスクが新興国特有のリスクであった時代は、今は昔となった感が否めない。冷戦終結後、過去30年余りにわたり進行してきたグローバリゼーション(ヒト・モノ・カネ・情報の移動の自由化)が転換点を迎えている。新興国のみならず、先進国においても、グローバリゼーションへの対立軸となる自国第一主義が台頭し、世論を二分し政治的分断を加速させている。

 グローバリゼーションの追い風の下、海外展開をしてきた日本企業にとっても、この潮流を捉えたM&A戦略の見直しが必要なタイミングを迎えている。本稿では、近年の政治的分断の特徴を捉え、政治的リスクが増す環境下でのM&Aの処方箋を述べる。

2. 近年の政治的分断の特徴:「自国第一主義」の台頭

 現在、欧米先進国では、「自国第一主義」を掲げる政党・政治家が国民の支持を受け、躍進している。これらの政党・政治家に共通する主張としては、伝統的な価値観の重視、反移民、自国産業保護など、自国の国益を最優先に据えた保守的な考え方である。メディアによっては、“極右”と評されることも多く、ネガティブな印象を持つ人も多いと想定されるが、多くの国民から支持されているという点は、将来的な政権奪取の可能性を孕むことから、過小評価すべきではない。

 米国では、2025年1月20日にドナルド・トランプ政権が発足し、世界に大きな影響を与えている。トランプ大統領は、選挙戦時から“Make America Great Again(=MAGA、アメリカを再び偉大な国に)”をスローガンに、「自国第一主義」を訴え、有権者の支持を集めた。2024年11月5日に行われた大統領選挙においては、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、民主党カマラ・ハリス候補に圧勝した。得票率でも投票した有権者の49.8%を確保し、米国有権者の半数の支持を得ている。同政権は、不法移民の取り締まり強化、パリ協定離脱、化石燃料の推進、WHO脱退、USAID(米国国際開発庁)閉鎖、連邦政府のDEIプログラムの終了、相互関税、言論の自由の回復、等の政策を矢継ぎ早に発表・実行し、前政権(バイデン政権)とは方針を180度転換したため、各国政府・企業は対応に追われている。



■筆者プロフィール■

田口氏

田口 優(たぐち・ゆう)
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー
大手食品メーカー(財務経理・税務部門)を経て、デロイト トーマツ コンサルティング入社。 主に、外部企業との提携を通じた新規事業開発、M&Aの検討・推進、再編を通じた事業変革等のアドバイザリーサービスの提供を専門とし、カントリーリスク分析やシナリオ分析を踏まえた投資判断の支援に豊富な経験を有する。

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