[【コーポレートガバナンス】よくわかるコーポレートガバナンス改革~日本企業の中長期的な成長に向けて~(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)]

(2019/08/21)

【第3回】 事業ポートフォリオマネジメント

汐谷 俊彦(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員)
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Best Owner Mindset(その事業を世界で最も上手く運営できるのは自社ですか?)


 まず、自社が運営している事業を並べてみましょう。その次に、その事業を運営できるかもしれない他社(競合他社が真っ先に思いつくと思いますが、競合だけに限りません)を思い浮かべてみましょう。さて、あなたの会社は、他社と比べてその事業を最も上手く運営できる、と自信をもって言えるでしょうか?答えが「否」であればそれは事業売却を考えた方がよいかもしれません。事業売却はそんな理由で検討し始められるものではない、と反論される方もいらっしゃると思います。しかし、 一定の規模があり、事業数もそれなりに持ち、グローバルにフットプリントを持つような欧米企業においては、事業売却を日常的に考えていない企業はむしろ皆無でしょう。

 なぜ日本企業は事業売却が苦手なのでしょうか?それはひとことでいうと様々な「しがらみ」があるからです。「祖業なので売れない」「前の社長の肝いりで始めた新規事業なのでやめられない」といったことはよく聞く話ですが、なにより「これまで自社に尽くしてくれた従業員を見捨てるつもりなのか」と詰め寄られることを考え、事業売却を逡巡する経営者は数多いと思います。従業員のみならず、その家族も含めた生活を預かっている自負と責任感からして経営者にとって事業売却はかなり困難な選択肢であることは間違いありません。かくして、本当に追い詰められて会社が潰れる寸前にまでならないと事業売却できないというのがこれまでの日本企業のパターンでした。事業売却は単なる経済合理性の議論にとどまらず、極めて感情が交錯する高度な経営の意思決定なのです。 

 この構造に、くさびを打ち込めるのが、実は取締役会であり、特にその中でも独立社外取締役なのです。取締役会の責務は、定期的に事業および競争環境をレビューし、一義的にはどうやったら勝てるのかを考えることですが、あわせて、 本当に自社でやるのがよいのかを検討することも必要です。そこで社外取締役は、第三者的に客観的に物申すことができることが最大の強みなのです。

 
 執行から分離した監督役の取締役会がサンクコスト(埋没費用)の罠や感情の罠にはまらずに、客観的かつ合理的にバッサリ切り込める、こういったところに取締役会の価値はあります。

 実際、先進グローバル企業では、その事業を運営するOwnerとして、自社が本当に最適なのか、常に自らに問い続けているといいます。スピード感をもって変化することが市場で生き残る唯一の方法であることをよく理解しているからです。成長のための資金も配分されない状態で、会社が潰れる寸前で「追い込まれ」売却となれば、買い手に足元をみられますから、売却…




デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

■筆者略歴
汐谷 俊彦(しおたに・としひこ)
外資系コンサルティング会社等を経て現職。製造業/テクノロジー/エネルギー/化学/ヘルスケア/商社など幅広い業界に対して成長戦略策定、事業ポートフォリオ見直しといった戦略面での支援や、M&A戦略策定に始まり、デューデリジェンス、PMI計画策定および実行支援・買収後のオペレーション改善といったM&Aライフサイクル全領域において幅広い経験を持つ。特にクロスボーダーM&Aやカーブアウト買収といった複雑で難易度の高い案件を数多く手掛けている。また、日系企業による海外企業の買収を契機に、その後のグローバル化に向けたトランスフォーメーション支援や、買収後の海外企業のターンアラウンド、ガバナンス改革などの案件も支援している。東京大学工学部卒。

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