[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]
2015年8月号 250号
(2015/07/15)
(前回までのあらすじ)
三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。半年ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
赴任初日、先輩社員である伊達伸行に案内してもらった工場は、製造用金型の管理の杜撰さなど、朝倉に新興国M&Aの実態を突きつけるような状況であった。朝倉は赴任前とのイメージの違いに戸惑いを感じていた。
経営管理担当:井上淳二
伊達と朝倉は工場を出て本社に向かった。夕方遅い時間であったが、太陽はほとんどその眩しさを減じていないように感じられた。
「そろそろ、誰かが戻ってきているだろう」
伊達はそう言いながら執務室のある2nd floorに入ると、数名の日本人の顔が見えた。そしてその中の一人が手を上げながら、朝倉に近づいてきた。
「おお、君が朝倉君か。日本からよく来てくれた。今日は空港に迎えに行けずに申し訳なかった」
朝倉はその人物が井上だと気付いた。経営管理担当で、年齢は伊達と朝倉の中間ぐらいのはずだ。朝倉が「初めまして」と挨拶すると、横から伊達がふざけた口ぶりで話し始めた。
「井上さんの代わりに、ちゃんと出迎えに行ってきましたよ。おまけに工場見学ツアーまでやらせていただきました。井上さんの使い走りの役目は、これで十分果たせたでしょうか?」
「伊達さん、ほんと勘弁してください。今日の営業所のトラブルは完全に私も想定外でした。しかもそんな日に限って駐在員は出払っていて、午後は伊達さんしかいなかったんです。私の代わりに伊達先輩を空港まで迎えに行かせたなんて、日本の連中が聞いたら私は殴られるでしょうね。今日は本当にありがとうございました」
井上は笑顔でそう応じると、伊達は「この貸しは高いぞ」と言いながら、自分のデスクのほうに歩いていった。
*Cコース会員の方は、最新号から過去3号分の記事をご覧いただけます
マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。
[【バリュエーション】Q&Aで理解する バリュエーションの本質(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)]
――4月1日「オリックス・クレジット」から「ドコモ・ファイナンス」に社名変更
[Webインタビュー]
[Webマール]