[対談・座談会]

2013年11月号 229号

(2013/10/15)

[座談会] 第4次ベンチャーブームの到来に向けて

~歴史の教訓をいかに生かすか~

 出席者
 尾崎 一法(アント・キャピタル・パートナーズ 代表取締役会長)
 西澤 民夫(一般社団法人オープンイノベーション促進協議会 代表理事
       日本エスアンドティー 代表取締役 他)
 松田 修一(ウエルインベストメント取締役会長 早稲田大学名誉教授・商学博士)
  • A,B,EXコース

左から尾崎 一法氏、松田 修一氏、西澤 民夫氏

-- アベノミクスの3本目の矢である成長戦略は、「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」と名付けられ、本年6月に閣議決定されました。そのポイントは、民間企業の活性化が、企業収益向上、雇用増・賃金上昇、消費増という好循環をもたらすという考え方であり、その「民間の活力を最大限に引き出す」施策として、3つのアクションプログラムが位置付けられています。そしてその1つ目の「日本産業再興プラン」の大きな柱の1つが、「内外資源を最大限に生かしたベンチャー投資、再チャレンジ投資の促進」です。具体的には、人材育成、エンジェル税制の運用改善、民間企業等によるベンチャー投資促進などの施策が盛り込まれ、秋の国会に上程される予定の「産業競争力強化法案」において実現する見込みです。我が国の産業構造を変革するためにはイノベーションが不可欠で、それを担うベンチャー企業の台頭とそれへの支援強化の重要性はますます高まっています。

  本日は、長年にわたりベンチャー企業の育成やベンチャー投資に携わってこられた、それぞれの第一人者の皆様にお集まりいただきました。国の政策も含めて、ベンチャー環境が大きく変わろうとする節目をとらえて、過去の教訓を生かし、来るべき第4次ベンチャーブームに向けて、現状の評価と今後の展望についてご議論頂きたいと思います。

自己紹介 

-- まず、ベンチャーとのかかわりを中心に、自己紹介をお願いします。

松田 修一氏松田 「博士課程を終えた直後の1973年、30歳の時に第1次オイルショックがありました。既に資格をとっていた公認会計士の仕事をするに当たり、最も幅広い業務をしている事務所はどこかと探して、73年に発足したばかりのサンワ事務所という監査法人を見つけました。今のトーマツですね。三井物産の法定監査とグループ各社の支援調査、さらにその取引先の融資審査調査をそれぞれバックアップしていた3つの会計事務所が合体したので『サンワ』と名付けたのですが、私は外部入社の第1号で、直接企業のトップも含む経営実態を調査対象にする取引先の融資審査調査をしたくて入所しました。会計監査手法を使って会社の経営実態を把握し、経営改善の提案をすると同時に、必要な不足資金の計算と回収計画を提案するという『独立第三者による経営監査』ですね。入社2年後から福岡支社の立ち上げや大阪事務所の立て直しをやりましたが、メーンの仕事は三井物産の取引先と関係会社の調査で、アジアを含むほとんど全国を回りました。調査対象は、設立30~50年、年商10億~500億円の中堅企業でオーナー系です。当時まだベンチャーという言葉は一般的でなかったですが、そういう形でベンチャーとの関わりが始まりました。35歳で東京に戻って、72年に設立された日本最大のベンチャーキャピタル(VC)である日本合同ファイナンス(現ジャフコ)の任意監査を、81年から担当しました。ジャフコを担当して、初めてそれまで私のやってきた調査業務こそ、ベンチャーの経営支援と再生の仕事だったということが分かり、ますます起業家の志と能力で事業を拡大できるベンチャーにどっぷりつかってしまいました。日本発の民法上のベンチャーファンドの創設やベンチャー業界の財務諸表等ルール化など、多くの勉強をさせていただきました。この間米国でやっと雑誌に論文掲載が出てきた『経営監査』という研究領域を、実践調査をしていることが分かり、8年がかりで博士論文を作成し、85年に『独立第三者による経営監査の研究』で商学博士(早稲田大学)学位を取得し、86年に早稲田大学の助教授に転職しました。早稲田大学ビジネススクール(WBS)で、経営者予備軍の教育に携わると同時に、会計士時代から一貫してベンチャー企業の研究とサポートの仕事をしてきました。大企業の関係会社であれ中堅・中小企業であれ、スモールユニットで全責任を負っている起業家や社長は、危機を乗り越えて成長し、事業スキルを付けていくわけです。そういうプロセスに直接関わって会社の成長を支援する、今でいうベンチャーキャピタリストのハンズオンが好きですね。

  実務者としてベンチャーに関わり、そこから学界に入ったこともあって、日本ベンチャー学会という新しい学会の創設にも努力しました。まず、88年から企業研究会を組織して、IPOを果たしたベンチャー企業の調査をし、90年にボストン大学の客員教授として半年間、米国ベンチャーと米国進出日本企業の戦略と進化の調査をしました。日本の業界トップの90%の米国現地法人が赤字であることにショックを受けました。『日本のイノベーションはベンチャーだ』という思いをますます強くしました。93年に、証券会社やVCなど関連業界の方に集まっていただいて、早稲田大学アントレプレヌール研究会(WERU)という研究会を立ち上げた。その時から西澤さんにお世話になっています。そして、97年に日本ベンチャー学会の立ち上げに協力し、WERUの会員メンバーを母体として日本初の大学発VC(ウエルインベストメント)を創設しました。

  それから、83年に新興市場として店頭登録市場が創設されて以降、ストックオプション制度ができた(97年)とか、有限責任投資事業組合法による従来民法上の組合の枠組みを使ってきた欠点の解消(98年)とか、エンジェル税制の改革(08年)とか、さまざまな制度整備が行われてきていますが、これらにいろいろ関係できたこともよかったですね。

  40年近くベンチャーに関わってきましたが、いま、まさに新たなブームの時期を迎えつつあると思っています。日本が、大きな曲がり角に来ており、大変革しなければならないという共通認識が国民にある。日本の今後のことを考えるときに、この最後のターニングポイントを逃さないようにする必要があります。この座談会も、その一助になれば幸いです」

  

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