時価総額は約4800億円のIPO 旧日立製作所系半導体製造装置メーカーのKOKUSAI ELECTRIC(以下KOKUSAI)が2023年10月25日、東京証券取引所プライム市場に上場した。初値は公開価格の1840円を15%上回る2116円。初値で換算した時価総額は約4800億円で2023年最大の新規株式公開(IPO)となった。
KOKUSAIの沿革は以下の通り。
日立製作所は、中核事業に経営資源を集中し収益率を高める選択と集中を徹底するため、映像・通信ソリューション事業および成膜プロセスソリューション事業を展開していた連結子会社「日立国際電気」の売却を決定。これを受けて、グローバルな投資会社KKRが運営・管理する特別目的会社「HKEホールディングス」が2017年12月、日立国際電気の株式の
公開買付け(TOB)を実施。日立国際電気は2018年3月に東京証券取引所市場第一部上場廃止となり、HKEホールディングスが2018年5月に日立国際電気を子会社化した。その後、2018年6月に日立国際電気が
会社分割を行い、同社の成膜プロセスソリューション事業をHKEホールディングスが承継し、同時に「KOKUSAI ELECTRIC」に商号変更した。
さらに2020年2月、KOKUSAIは保有する日立国際電気(映像・通信ソリューション事業)の全株式を日本産業第4号投資事業有限責任組合(日本産業パートナーズ)の特別目的会社「HVJホールディングス」に譲渡。これによって、日立国際電気の持ち株比率はHVJが80%、日立製作所が20%となり、その後、23年7月に日清紡ホールディングスが100%子会社であるNisshinbo Singapore Pte. Ltd.(日清紡シンガポール)と共同でHVJ ホールディングスの株式を取得した。日立製作所は引き続き 日立国際電気の株式20%を保有する形となっている。
半導体デバイスの性能を左右する成膜プロセス、トリートメント(膜質改善)で世界のトップシェア 半導体デバイスの製造には2つの工程がある。ウエハーの表面に何層も薄膜を形成し、設計した電子回路を形成する「前工程」と、ウエハーから半導体チップを切り出し、パッケージに封入して組立や検査を行う「後工程」がそれだ。KOKUSAIグループは、前工程のうち半導体デバイスの性能を左右する成膜プロセス、トリートメント(膜質改善)プロセスを軸に事業を展開している。ウエハーに薄膜を形成する「成膜」については、半導体製造プロセスの中で基本となる酸化・アニール・成膜をおこなうバッチ式熱処理装置に強く、その中でもALD(Atomic Layer Deposition:原子堆積法)という成膜技術においては、世界シェア1位。成膜後の膜質改善に使われるトリートメント装置についても、市場シェアはトップクラスを獲得している。ちなみに、KOKUSAIの2023年3月期連結売上高は2457億円。
KOKUSAIは当初からIPOを目指していたわけではなかった。2019年7月には半導体製造装置メーカーの米アプライド・マテリアルズがKOKUSAI ELECTRICの買収を発表している。アプライド・マテリアルズは、世界最大の半導体製造装置メーカーで、KOKUSAIが得意とするバッチ式熱処理装置での取り込みは、成膜装置分野でのシナジーが高いと見られていた。しかし、中国独禁法当局の承認を得られず、2021年3月に契約を解除。その後、KOKUSAIはIPOへと方向転換したが、世界的に株式市況が悪化しており、タイミングを見極めていた。
【異動前後におけるケイケイアール・エイチケーイー・インベストメント・エルピー(KKR HKE Investment L.P.)の所有する議決権の数及び議決権所有割合】 | 属性 | 議決権の数(議決権所有割合) |
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直接所有分 | 合算対象分 | 合 計 |
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異動前 (2023年9月21日現在) | 親会社及び主要株主である筆頭株主 | 1,687,005個 (73.22%) | 0個 (0.00%) | 1,687,005個 (73.22%) |
異動後 (2023年10月25日現在) | その他の関係会社及び主要株主である筆頭株主 | 1,010,258個 (43.85%) | 0個 (0.00%) | 1,010,258個 (43.85%) |
今回のIPOでKKRの持分は73.2%から43.8%まで低下した(上表)が、筆頭株主の地位を確保している。KKRは今後KOKUSAIの成長戦略をどう描いているのか、上場までのプロセスも含めて中村正樹・KKRジャパン マネージング・ディレクターに聞いた。