[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]

2013年9月号 227号

(2013/08/15)

第51回 『最後の奉公』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング)
  • A,B,EXコース

【登場人物】  山岡ファイナンスサービス社は、渋沢ファイナンスコーポレーション社との経営統合を半年後に迎えようとする中で、大規模な構造改革を実行せざるを得ない状況となっていた。また山岡FS社の野澤博人社長は、渋沢FC社との統合交渉の駆け引きの結果として、内定していた新会社社長の椅子を辞すことになった。
  構造改革プランの取締役会決議の日が間近に迫る中で、野澤は新会社のために新たな覚悟を実現すべく、先々代の社長を訪ねることにした。

構造改革プランの取締役会決議

  社長議案として山岡FS社の役員会に諮られた構造改革プランは、一部の役員から散発的な意見が出されたものの、紛糾することなく全会一致で承認された。また同日午後に開かれた取締役会においても、監査役と社外取締役からいくつかの質問が出たが混乱なく承認された。
   経営企画室長として役員会と取締役会の双方に出席していた松尾明夫は、役員の多くが何も反応せず、あっけなく議案が承認・決裁されたことに驚きを隠せなかった。会社が危機的な状況にあることは事実としても、構造改革プランには全社員の一割以上の人員を削減するという計画も盛り込まれており、非常に厳しい内容なのだ。自由闊達な社風の中で、山岡FS社は役員会であろうとも大いに議論が行われるのが通常である。しかし今回の議案については、特に幹部役員は口をつぐんだまま声ひとつ発することはなかった。

先々代社長への訪問

  取締役会開催の二日前の朝、山岡FS社の野澤博人は先々代の社長である牛島満の自宅を訪ねた。既に相談役に退いている牛島が会社に顔を出すことは殆どなく、多くても月に1、2回程度であった。世田谷の閑静な住宅地にある牛島宅は、広くはないが古い趣の日本庭園を有し、純日本建築の建屋も風格を備えていた。自分の代で手に入れたのではなく、おそらく先祖から受け継いだ土地と家なのだろう。

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