[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]

2013年10月号 228号

(2013/09/15)

第52回 『統合に向けた、役員・上級管理職の人心掌握』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング)
  • A,B,EXコース

【登場人物】  山岡ファイナンスサービス社は、渋沢ファイナンスコーポレーション社との経営統合を半年後に迎えようとする中で、大規模な構造改革を実行せざるを得ない状況となっていた。また山岡FS社の野澤博人社長は、渋沢FC社との統合交渉の駆け引きの結果として、内定していた新会社社長の椅子を辞すことになった。
  構造改革プランがついに取締役会決議を迎え社内発表が行われる中で、野澤と先々代社長である牛島満は、統合の成功に向けた人心掌握のために動き出そうとしていた。

構造改革の発表

  取締役会での決議後、構造改革プランは直ちに山岡FS社内で発表された。取締役会が終了した14時過ぎには、まず本社部門長クラスと全国の支社長および支店長に対し、構造改革プランの趣旨・内容と今後の予定、そして現場を預かる管理職層が取るべき対応事項が経営企画室通達として発信された。
  「今後の予定と対応事項」に記載されていた事項は、大まかに以下の内容である。

1. 本日15時半に、構造改革の実施について適時開示を行い、社外に公表する

2. 同タイミングにて社長名で全社員に通達を出し、構造改革プランの詳細を社内発表する

3. 社長通達の発表後できるだけ速やかに、現場部門長は傘下の従業員を招集し状況説明会を実施する

4. 明日朝8時半から、全支社・全支店をテレビ会議でつなぎ、社長が従業員に直接説明を行う

5. 明後日の土曜日午前中には、支店長以上の上級管理職に対し、東京本社で今後の対応説明会を行う

  14時過ぎに通達を受け取った現場部門長には、突然の事態に動揺するものも少なからずいたが、過半の者は「ついに来たか」と冷静に事実を受け止めていた。数年前から同じ業界内でも希望退職等の人員削減が行われており、前回の中間決算発表での危機的な自社の経営状況を踏まえれば、このようなことが行われることは時間の問題であると感じていたからだ。また自らが懇意にしている役員層を通して、近いうちに構造改革が行われることを薄々ながら感じ取っていたものも多くいた。
  現場部門長の中には経営企画室に電話をし、今後取るべき対応について細かに問い合わせを行う者もいた。しかし多くは寡黙に冷静を保ち、仲の良い部門長同士で静かに連絡を取り合う程度で、15時半以降に実施しなければならない傘下従業員への説明に備え始めた。
  通達には、営業社員など15時半以降にすぐには集まれない社員についても、必ず本日中には何らか連絡を取り、部門長から話をしなければならないと記載されている。また休暇中の者や休職者についても、個々人の状況を鑑みながら、電話などによる本日中の連絡ができる限り求められていた。
  翌朝8時半開始の社長からの全社員説明会についても、重要商談等の予定以外は全てキャンセルし、一人でも多くの従業員を参加させなくてはならないと強調されている。また土曜日の上級管理職説明会には、地方支社・支店の者も、原則として全員が東京本社に出張して参加しなければならないとされた。

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