[マールインタビュー]

2014年3月号 233号

(2014/02/15)

No.165 日本が今、ドイツ会社法から学ぶべきこと

 高橋 英治(大阪市立大学大学院 法学研究科 教授)
  • A,B,EXコース

高橋 英治(大阪市立大学大学院 法学研究科 教授)

[1]親子会社法制(企業結合法制)の評価

議決権支配による企業集団


-- 日本の企業集団(企業結合)の現状をどう認識されていますか。

  「日本には二つのタイプの企業集団があると言われています。水平型(横)と垂直型(縦)です。水平型は旧来の三井、三菱を中心とした財閥グループの株式の相互持ち合いなどがそうです。最盛期にはグループ内で合計20数%を保有し、社長会が大株主として結束して影響力を行使したこともあったようです。最近は持ち合いが崩れて、水平型企業集団はだんだん存在感が希薄化しています。それに代わって今は、縦(親子型)の企業集団が増えてきています」

-- 金融機関のように純粋持株会社を頂点とする企業集団も増えています。

   「純粋持株会社の場合、傘下にぶら下がる会社は100%子会社が多く、子会社の少数派株主保護の問題はあまり発生しません。そうした企業集団よりも、支配会社(親会社)が一部の資本で従属会社(子会社)を支配する形の企業集団が会社法上の問題として相対的に重要になっているように思われます。議決権による支配です。日本は、こうした企業結合を促進する法制になっています。日本では、会社法にドイツのように企業集団における従属会社の少数派株主や債権者を保護するコンツェルン法制(企業結合法制)が整備されていなかったためです」

-- 支配企業にとって議決権による支配は得ですか。

   「一部の資本で会社全体を支配できます。お金もかからないし、いざとなれば逃げられます。合併のように株式買取請求権で争われることもありません。一つの組織にもならない、独立もしていない。真ん中を取ったほうが得です。内部組織と市場の中間形態と言えます。悪用すれば、少ない出資で会社を支配した後、親子間の不公正な取引によって子会社から資産を収奪することも可能です。放っておくと、中間的な企業結合にどんどん流れていきます。良い面、悪い面があって、こうした企業集団の問題(集中)を国民経済的にどう評価するかは難しく、ドイツにはこの問題を学術的に調べる国家機関のドイツ独占委員会があります。会社法学者の視点で言えば、従属企業に少数派株主や債権者が多数発生することになり、その保護をどう図るかという問題が重要になってきます」

-- 日本では、子会社で何か問題が起きた場合、親会社が事実上、債権者の救済などに当たっていたのではないですか。

   「そうです。ドイツでこの話をしたら、慣習法としてのコンツェルン法だと言っていました(笑い)。しかし、経済が好調で親会社に余裕がある時代はそれでもよいのでしょうが、経済情勢によっては不確実です。やはり企業結合法制をちゃんと整備する必要があるのです」

-- 議決権による支配の促進は、会社法だけでの問題ではなさそうです。金融商品取引法で公開買付規制が厳しくなりましたが、ここもまだそういう法制になっている感じがします。

   「そうですね。少数派株主保護のため、買付企業に全部買付義務を課しましたが、その義務が発生するのは対象会社の株式の3分の2以上を買付ける場合です。30%以上を基準とする英国などと比べても緩やかです」

 

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング