[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]

2014年6月号 236号

(2014/05/15)

第60回 『新会社経営のステートメント』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング)
  • A,B,EXコース

【登場人物】  山岡ファイナンスサービス社と渋沢ファイナンスコーポレーション社は、経営統合を数カ月後に迎えようとしていた。そんな中で、渋沢FC社の社長であり統合新会社の社長就任が決まっていた飯塚良に、末期癌が見つかった。
  突然の事態に多くの関係者が戸惑う中で、山岡FS社の野澤博人社長は、新会社の行く末を飯塚良と経営トップ同士で腹を割って話をすべく緊急帰国し、飯塚が入院する病室に向かった。そこで野澤は思いがけない依頼を受けることになったが、経営者同士の絆で結ばれた飯塚の思いを受け取り、野澤は覚悟を決めた。

やむを得ない憶測、動揺する社員

  野澤社長と飯塚社長の病院での会談からおよそ1カ月後、両社の経営統合の第一歩となる共同持株会社の役員体制が発表された。本当はもっと早く発表されるはずであったが、飯塚良の病気発覚に端を発した人事見直しにより、予定よりも大きく遅れてようやく発表にこぎつけたのだ。
  発表が遅れていたことについて、両社内や業界内では様々な憶測が流されていた。経営統合直前に至り両社トップが危機的な対立に陥っているというものや、退任すると噂されている野澤博人社長が山岡FS社内で求心力を失い、若手役員から取締役会でクーデターを起こされたという類のものである。一部の刺激的な経済誌上では、それらがあたかも真実のように語られた記事も掲載された。経営統合に反対の立場をとったことで退任することになっている役員や、構造改革に応募した管理職員などの不満分子が、ネガティブに捻じ曲げられた情報や勝手な憶測を記者に伝えていることは明白であった。
  またこの1カ月間、両社の経営幹部から構成される統合推進委員会が二度も流会になったことも、様々な噂を呼ぶ大きな原因となっていた。これまでは月に必ず2回、多少の日程変更が行われることがあっても必ず開催され、中止されることは一度もなかった。たとえ重要な意思決定事項がなかったとしても、領域別の統合準備状況が責任者から報告される重要な場として認識されていたのだ。
  流会となった理由は飯塚良の緊急入院によるものであったが、それは両社と親会社のごく一部の人間しか知らない事実であり、渋沢FC社社員もまさか自社の社長が深刻な病に冒されているなどとは思いもよらなかった。両社の末端現場では、経営統合に向けて大詰めの準備作業が進められており、連日の残業も相まって社員の疲労と不満もピークを迎えようとしている。そんな中で社内外の多くの噂や憶測にさらされ、現場では「上の人間たちはこの期に及んで何をやっているのか」という暗澹たる空気が流れ始めていた。
  

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