[ポストM&A戦略]

2014年6月号 236号

(2014/05/15)

第66回 経営者ガバナンスの仕切り直し(下)

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル)
  • A,B,EXコース

  買収先の経営者に対するガバナンスを仕切り直すもう一つの場面は、買収後の組織再編である。すなわち、買収先の受け入れに主眼を置いたDay 1における暫定的な組織構造を、所期のシナジーを追求するための本組織(シナジー追求組織)に改変する時である。地域と事業のマトリクス組織に代表される、マトリクス組織同士の組織再編が、恐らくもっとも難度が高い。
  買収前にあった既存の組織と買収先の間にあまり重複がなければ、組織再編自体の必要性が低い。すなわち、M&Aで入手した事業組織と経営者を、買収後も既存組織から分離・自立させておくことができるので、買収時に採用した組織構造が、次の大きなM&Aが起こるまで、あるいは買い手発の事業再編があるまで、そのまま使い続けることができるイメージである。
  しかし、例えばすでに事業進出している地域において同種の企業・事業を買収し、市場シェアの向上をはかるようなM&Aの場合では、買収直後はともかく、所期のシナジーを追求するために遠からず組織再編は必至であり、これに伴って既存経営者・新参経営者の選別や報酬の再設計が避けられない。今回は、内部課題とはいえ、このデリケートな問題について解説する。

PMIで求められる統合のレベルと時間軸

  M&Aのメリットの一つは、事業を一気に手に入れることができる点だ。より具体的には、組織と経営者がセットで手に入るということである。
  一旦M&Aの交渉がまとまりサイニングに至れば、その後は買収契約のクロージングが合意した期日(Day 1)に確実に行えるように、残課題を克服するプロセスが続く。買収契約が発効すれば、買収対象となった会社や事業(アセット)が買い手のところに来てしまうので、買い手はその時までにそれを受け取る準備を終えていないといけない。
  本連載でも解説したとおり、カーブアウト(資産買収)では株式買収に比べて、明らかにこのクロージング準備プロセスが重い(本連載第48-49回「スタンド・アロン・イシュー(上))」参照)。
  ところで、クロージング日に会社や事業を受け取るためには、各国に受け入れ拠点(Receiving Entity)がなければならない。何を受け取るかと言えば、事業にまつわる諸契約や権利関係であり、従業員である。従業員を受け取るというのは、そこで雇用契約を結ぶ、ということである。株式買収の場合では、買収対象がすでに会社であるから、基本的にこの受け入れ拠点を準備する必要がない。大まかには、事業にまつわる諸契約や権利関係、従業員との雇用関係は変わらず、会社の所有権が買い手に移るだけである。
  しかし、カーブアウトの場合では、買収対象が事業であって会社ではないので、国ごとにこの受け入れ拠点を用意する必要がある。すなわち、1) 買い手の既存拠点があり、そこで受け入れるのか、2) 既存の拠点はあるが、事情があって別に拠点を新設するのか、3) 既存の拠点がないので拠点を新設せざるを得ないのか、ということである。
 

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