[特集インタビュー]
2014年7月号 237号
(2014/06/15)
中国の現状をどう見るか
-- 中国は、かつては安価な労働力を背景として発展し、「世界の工場」と呼ばれてきました。しかし、本特集の中のジェトロによる寄稿論文でも指摘されているように、近年、人件費の上昇に伴って日本企業の中には2000年代前半に見られたような低コストの生産基地という中国進出へのメリットが失われつつあることから、より安価な労働力を求めて東南アジアに生産拠点をシフトするところが増加しています。また、中国経済の減速が明確になる一方で、尖閣諸島の領有権を巡る日中間の緊張も高まり、日本企業の中国における事業展開方針もばらつきが大きくなっているように見えます。今後、日本企業はどのような視点に立って新たな中国投資戦略を立てるべきなのかについてお話を伺いたいと思います。
「基本的に日本企業が今後の中国投資戦略を立てる場合に、私は2つの論点を整理する必要があると考えています。1つは、中国経済をどう見るべきか、という点です。先日、中国の今年第1四半期のGDPが発表されましたが、おっしゃるように中国経済はスローダウンしてきています。その中国経済をマクロ的にどう見るべきか、という点。もう1つは日中の政治関係です。政治的な緊張関係は短期的には終わりません。このリスクをどう判断すべきか。この2点がまさに日本企業の経営者として判断しなければならないポイントです。
ところで、日本では日中の政治的な緊張関係を指して『チャイナリスク』と言われることが多いのですが、それはちょっと違います。これは『日中関係リスク』というべきです。日本と中国の政治的緊張が高まっていることは、韓国やドイツの企業にとっては関係がありません。むしろ彼らから見ると、日中の緊張関係はリスクではなくてある意味でチャンスとも言えるわけですから、その点はしっかりと整理しておかなければなりません。 その上で、まず第1の論点、マクロ的に中国経済をどう見るべきかについて私の考えをお話ししましょう。
ご存じのように、中国は1978年の改革・開放路線以降、奇跡的な成長を遂げてきました。国内総生産(GDP)の成長率(前年比伸び率)は80年代に平均9.7%、90年代に同10.0%、2000年代(2000~10年)に同10.3%を記録しました。ところが近年は大幅に低下し、12年と13年はともに7.7%となっています。これまで中国政府は、輸出競争力の強化を目指して沿海部を中心に輸出競争力の高い外国企業の誘致に力を入れてきました。そのために外国企業を誘致する経済開発区の建設をはじめ、港湾整備、交通運輸インフラ建設等にリソースを集中してきた。その結果、中国は『世界の工場』と言われるほどの変貌を遂げました。さらに01年12月のWTO(世界貿易機関: World Trade Organization)加盟によって、輸出投資主導型の高度経済成長を実現しました。しかし、一方で深刻化する環境・資源制約や社会の不安定化が顕在化し、今後、格差是正のための税制改革や国民皆保険などを進めていくという方向性が明確に打ち出されました。実際、14年3月に開かれた全国人民代表大会で李克強首相は、施政方針演説の中で14年の実質成長率の目標を7.5%前後とし、構造改革によって安定成長を保つ姿勢を鮮明にしています。
経済成長率のスローダウンについてですが、これまで中国政府には膨大な数の国民を食べさせていかなければならないという至上命題がありましたから、高い経済成長が必要でした。その結果、GDPの規模も大きくなり、GDPの1%の成長による雇用誘発効果も昔よりは多くなっています。昔は1%成長で100万人の雇用誘発効果もなかったのが、今では150万人ぐらいの雇用誘発効果が出るようになっています。そうなってくると、同じ1000万人の雇用を確保するために、昔は10%の成長が必要だったのが今は7%でいいということになっているということも認識しておかなければなりません。
問題は、この経済成長率のスローダウンが安定成長の範囲にとどまるのか、それともハードランディングしていくかという点で、この心配がおそらく日本の経営者の中にはあると思います。その点について、最近のデータから見ると8期連続で四半期ベース7%~8%のレンジの中に誘導しているわけで、私は相当政府によるマネジメントはうまくいっていると見ています。
ただし、経済を安定的に推移させていくためには、多くの課題を克服する必要があることは言うまでもありません。その課題を克服できない場合には中国経済は失速し、30年頃に先進国の仲間入りをするということが難しくなるでしょう」
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