[M&A戦略と法務]

2015年1月号 243号

(2014/12/15)

M&Aデュー・デリジェンスにおける反社会的勢力属性調査

 大井 哲也(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
 古野 啓介(JPリサーチ&コンサルティング 代表取締役)
  • A,B,EXコース

反社会的勢力排除の背景とM&Aマーケットの現状

  2011年に全都道府県において暴力団排除条例が施行されて以降、社会の暴排意識の高まりに比例して、暴力団に対して利益供与する、または暴力団の活動を助長する取引を行う企業の取締りが強化されている。そのような背景のなか、暴力団との関係を有した企業や個人は、実際に行政当局からの業務停止や実名公表まで行われ、銀行や保険会社等の金融機関も、取引停止や口座開設拒否の制裁を科せられているケースも多数存在する。

  ここで企業が気をつけるべき点は、必ずしも反社会的勢力=暴力団とは限らないということである。暴力団属性がない者との取引であっても、その者が暴力団との深い関係を有したフロント企業、共生者、または密接交際者などとされた場合、それらとの取引も制裁の対象となりうる。

  具体的なケースとしては、例えば、

  1)暴力団員の属性は無いものの、銀行が反社会的勢力と評価している個人と継続的なビジネス上の関係のある企業に対し、銀行口座の開設を拒否したケース

  2)A社がM&Aによって子会社化したB社の役員が、役員を兼任しているC社は、反社会的勢力と密接な関係を有するとしてWEBメディアに指摘された。このA社と取引をしていた銀行が、新規取引の拒絶を通告したケース、などがある。

  これらの事例のように、直接の取引の相手方において、暴力団属性が認められないとしても、直ちに「取引相手として問題がない」とは判断することは、早計である。

  反社会的勢力属性調査は、取引相手のみを対象とする単なる「属性調査」だけではなく、その者に関係する周辺者も含め、また、属性のみならずビジネス履歴やレピュテーションを含めた事象を総合的にカバーする必要がある。証券会社や、金融当局も、反社会的勢力属性について、広くメディア情報、週刊誌などの媒体はもちろんのこと、WEBメディア、匿名掲示板のようなメディアまで調査対象とする場合があることも現実である。

  このような現状に呼応して、高いコンプライアンス意識をもつ企業が増えつつある一方で、反社会的勢力に関与することのリスク感覚に乏しい企業では、反社会的勢力属性調査が全く行われないまま、M&Aの法務デュー・デリジェンスを終えてしまう例も少なくない。未だ反社会的勢力に関与することのリスクを的確に認識できていない企業や、そのアドバイザーが存在することには不安を覚える。
 

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