[書評]
2016年11月号 265号
(2016/10/18)
「戦略コンサルは、数字が苦手」
「会計士は、ビジネスに興味がない」
M&Aコンサルティング会社を経営していた頃、これがいつも頭痛の種だった。
だから「本書は会計と経営戦略をつなぐ架け橋である」との著者の言葉が目に入った時、膝をたたいた。戦略と会計は一体。将来の戦略が数字に表されたものが事業計画。戦略実行後、現実はどうだったかを示すのが財務諸表。
戦略と会計の両方がわかっていないと、ビジネスデューデリジェンスはできないのだが、その両方をバランスよく見ることができるコンサルタントはそう多くはない。だからプロジェクト組成にあたっては、いつも戦略コンサルタントと会計士の組み合わせでチームアップしなければいけなかった。
「戦略コンサルに数字に強くなってもらう」こと、「会計士にビジネスを理解してもらう」ことの両方を試みてみたが、どちらも極めて難しかったことを鑑みるにつけ、会計起点のスタンスで、会計を戦略に活用することを説いている著者のチャレンジは、素直に応援したい。
本書の良さは、「バランスの良さ」にある。
まず、日本企業のCFO(最高財務責任者)に必要とされる「領域がバランス」よくカバーされている。
欧米企業と日本企業のCFOとはその役割が若干異なるが、本書がカバーしている領域は、事業ポートフォリオ戦略、事業評価指標、M&A、企業価値評価、予算管理、CVP分析、バランススコアカード、意思決定会計、資金調達であり、これらは、今や日本企業のCFOにとって知っておくべき必須の領域である。
これらがバランスよく解説されていることにより、「経営者のそばにいて、経営管理を統括し、会計の専門知識を駆使して経営戦略に必要な情報や公理を提供する」CFO人材を育成するための良き教科書になっている。
また「深さのバランス」が良い。
著者が監査業務のみならず、企業の戦略部や公開準備会社のCFOや財務顧問などの業務に携わった経験があるためであろう。「企業で経理財務や戦略立案に携わる実務者が具体的に会計参謀として、CFOの職務の全容を俯瞰し、経営戦略実務で活用すること」が意識されており、過度にマニアックな専門領域にまで入り込んでおらず、どのような業務は外部専門家に任せる方がよいか、そのうえで会社はどこをはずしてはいけないかの実務がしっかりと押さえられたうえでの解説になっている。
出色は、各章末の「実務ノート」である。
これは、現場を経験したことのない人には書けない内容であり、深い問題意識のもと、業務に臨んでいたことが伺える臨場感たっぷりの内容である。
戦略と会計の両輪の重要性を基本スタンスとしていること、領域と深さのバランスが良いことによって、本書は、会計と経営戦略をつなぐ「会計参謀」を必要とする企業経営者やその予備軍だけでなく、M&Aファームのプロフェッショナルにも是非とも読んで欲しい一冊に仕上がっている。
もし次に出版の機会があれば、著者には「実務ノート」を膨らませた内容の本を期待したいところである。
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