[対談・座談会]

2016年1月号 255号

(2015/12/15)

[座談会]実務家が語るグローバルM&Aにおける不正リスク対応

 藤本 欣伸(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)
 プレボスト 真由美(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー フォレンジックサービス マネージングディレクター)
 守田 達也(双日 法務部 部長)
 司会・構成 丹羽 昇一(編集長)
  • A,B,EXコース

左から藤本 欣伸氏、プレボスト 真由美氏、守田 達也氏、丹羽 昇一編集長

<目次>

自己紹介

丹羽 「第一三共やLIXILなど、買収先の不祥事などで想定外の損害を被る事例が出ています。M&Aにおける不正・不祥事リスクをそのM&Aプロセスにおいていかにミニマイズし、また、買収後発生する可能性があるリスクにいかに対応するか。さらに、グローバルなグループ経営におけるコンプライアンス体制はいかに在るべきか。課題は多いと思います。本日は実務家の皆様にお集まりいただき、リスク対応の実際と課題について議論頂きます。

  まず、プレボストさんから自己紹介をお願いします」

プレボスト氏 プレボスト 「デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(以下、デロイト)のプレボスト真由美と申します。日本でフォレンジックサービスを担当しています。企業に絡む不正や不祥事といったリスクを調査・分析・把握して、再発防止の対策と体制作りを支援するサービスですが、そうしたリスクマネジメントのための企業組織内部の意識・業務・組織改革の助言や、訴訟や係争が発生した際の支援などを行っています。

  生まれも育ちも日本ですが、大学からアメリカ暮らしで、卒業後すぐに米国デロイトに入って、不正防止の専門家として、不正調査やコンプライアンス体制構築の仕事を、20年近くしてきました。日本には長期出張も含め何度も来ていますが、昨年(2014年)1月からは、日本でサービスの提供をしています。

  M&Aに関しては、契約前の段階における、FCPA(米国海外腐敗行為防止法:Foreign Corrupt Practices Act of 1977)関係のデューデリジェンス(DD)のほか、ディール後に不正が発覚した場合に、その調査を依頼されたり、表明保証・補償などの買収契約条項に基づいて訴訟対応の助言をすることが多いです。また、不正があるなしに関係なく、買収契約条項に基づいて実質的な価格調整が行われる場合には、その査定のサポートもさせていただいています」

丹羽 「藤本先生、お願いします」

藤本氏 藤本 「藤本欣伸と申します。弁護士になって25周年になります。91年に弁護士になった時は、いわゆる渉外弁護士として国際関係の仕事につきました。その後、シカゴ大学のロースクールを卒業して、ニューヨークで2年働き、97年に日本に帰国しました。97年は、日本の金融・経済が危機的なときで、三洋証券、拓銀、山一證券など大手金融機関が破たんしました。その頃、外資系投資ファンドが日本に参入して不良債権投資をはじめました。不良債権ビジネスは当時の日本にとっては新しいビジネスで、ちょうど米国から帰国したばかりということもあり、投資ファンド関係の仕事を集中的にやりました。2000年頃になると、ファンドの投資対象が不動産にシフトしましたので、不動産案件にも取り組みました。01~02年頃になると、日本企業の株式への投資、すなわちM&Aが増え始め、欧米的なM&Aのやり方やドキュメンテーション・DDが定着してきて、M&Aマーケットが急拡大しました。08年のリーマンショックまで一気に拡大しましたので、M&Aが仕事の中心になりました。外資による日本企業の買収やPE(プライベートエクイティ)ファンドの案件も増えました。リーマンショック後は、日本企業の海外M&A(IN-OUT)が急激に増えてきて、国際的な対応が必要になっています。

  この国際的な対応の問題は、実は国内企業同士のM&Aでも重要になっています。2つの要因があって、1つは、買収対象の日本企業も海外子会社をたくさん持っているため、DDも海外のウエイトがますます高まっている点です。もう1つは独禁法の問題で、日本企業同士でも一定の規模を超えると、独禁法の届出が世界各国で必要になる可能性があって、そのチェックを100カ国以上について行うケースもあります。

  私どもの事務所は弁護士が500人以上いますが、国際的な対応が必要な案件が私の仕事の中心になっています。

  さて、不正リスクについてですが、日本の優良企業によるいわゆる不祥事の報道が目立ってきていますが、M&Aにおいても、DDをしても不正が分からなくて、買収後に判明し、巨額の損失を被ったといったケースが出ています。これだけ海外の買収案件が増えてくると、ますます不正リスクが高くなる。法律や習慣が違いますし、日本の常識が通用しないことが多いですから、そうした中で、日本企業がいかにリスクヘッジをしていくのか。極めて重要かつタイムリーな課題だと思います。

  なお、先ほど、プレボストさんから不正調査のお話が出ましたが、弁護士事務所も不正・不祥事が発生した時は、もちろん法的助言という大きな役割を果たしますし、不正調査サービスもします。また、予防のためのコンプライアンス体制の構築や運用に対するアドバイスも大きな仕事になっています。」

丹羽 「守田さん、お願いします」

守田氏 守田 「双日株式会社で法務部の部長をしております、守田と申します。双日は、日商岩井とニチメンが2004年に合併してできた会社ですが、私は1990年に日商岩井に入社して以来、ほぼ法務一筋のキャリアです。入社数年で米国のロースクールを卒業し、95年にニューヨークでの実務研修を終えて、日本に帰り大阪・東京の法務部に所属した後、97年のアジア通貨危機の時に、不良資産処理のためにインドネシアのジャカルタに行きました。04年の統合の際はその対応のためにシンガポールに移りましたが、その後、商社生活を終えることにして、日本の独立行政法人に2年ほどお世話になりました。06年に縁あって双日に戻ることとなり、ニューヨークに駐在した後、11年から東京の法務部に戻って、昨年(14年)に部長になったという経歴です。法務業務に携わってきましたが、様々な場所で色々と経験してきたな、という感があります。

  商社の仕事についてですが、プロジェクトファイナンスなどが大きな割合をしめていた時代もあり、一方で新規のジョイントベンチャー(JV)の設立やメーカーの商権を分社してその会社に出資するようなM&Aに近い投資も以前から手掛けてきています。ただ、当時はDDの概念もなく、今考えるとよくそれでやっていたなという状況でした。しかし、アジア通貨危機やITバブル崩壊などを経て、いよいよ本格的な事業投資のM&Aをやる時代になった。ビジネスモデルも融資から投資にシフトし、投資先の不正リスクを含む、様々な減損リスクへの対応等、業務内容も大きく変わってきています」

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