1.はじめに 2023年の3月期決算企業の株主総会では、株主
アクティビスト(以下アクティビスト)などから計340件を超える株主提案が90社に出され、取締役選任や利益還元などに関して、賛成多数で可決される提案もあった(注1)。昨年の東証の
PBR1倍割れ改善要請も受けて、アクティビストの主張は足元の株主還元にとどまらず中長期的な
企業価値向上を目的とする内容など、その活動に変化も見られ、国内外の機関投資家の賛成票が高まる傾向にある。
アクティビストは経営の効率化を進め、中長期的な企業価値向上をもたらすのか、あるいは経営のショートターミズムをもたらすのか。米国での学術研究においては、前者すなわち、アクティビストは経営者と株主間のエージェンシー問題を緩和する傾向にある結果を示している。本稿では日米の企業に対するアクティビストの影響について、実証研究の分析結果から考察する。
2.アクティビストによるエージェンシー問題の緩和(米国の事例) 株主が広く分散した状態では、
■筆者プロフィール■
三和 裕美子(みわ・ゆみこ)
明治大学商学部 教授 博士(商学)
I-Oウェルス・アドバイザーズ株式会社代表取締役社長
1997年明治大学商学部専任講師、同助教授を経て2005年より同教授、現在に至る。米ミシガン大学客員研究員(2006年~2008年)。各種学会理事のほか、エーザイ株式会社社外取締役、ピジョン株式会社社外取締役、全国市町村職員共済組合連合会資金運用委員会委員、地方職員共済組合年金資産運用検討委員会委員、野村アセットマネジメント株式会社責任投資諮問委員・サステナブルアドバイザリーボード委員を務める。
研究分野は機関投資家とコーポレートガバナンス、機関投資家のエンゲージメントとESG投資、アクティビストの企業への影響など。主な著書として、『機関投資家の発展とコーポレート・ガバナンス』日本評論社(1999年)、『激動の資本市場を駆け抜けた女たち』白桃書房(2022年)などがある。